#### 1. **曇る関係**

　「私たち、友達だよね？」

　教室の片隅で、佳織（かおり）は絞り出すような声で言った。目の前にいるのは、美緒（みお）と玲（れい）。

　「もちろん。」

　玲が微笑む。その表情は穏やかで、どこか冷静さを保っている。

　一方、美緒は短く「うん」とだけ答えたが、その声には刺々しさが滲んでいた。

　3人の関係は、このところ奇妙に絡まり、ぎくしゃくしていた。

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　最初に佳織が心を寄せたのは玲だった。清楚で物静か、全てを見透かしたような佇まい。2年生になったばかりの春、図書館で本を読んでいた玲を見た瞬間、佳織は心臓を掴まれたような感覚を覚えた。

　「玲さん……綺麗だな。」

　勇気を振り絞って話しかけると、玲は優しく微笑んでくれた。その日から佳織は毎日のように玲と一緒に過ごし、彼女の静かな声や控えめな仕草に心を癒されていった。

　しかし、そんな佳織の気持ちに気づいたのは、美緒だった。

　「……佳織は玲が好きなんだね。」

　ある日の放課後、屋上で美緒は佳織にそう告げた。

　美緒は佳織の幼馴染で、彼女の隣にいることが当たり前だった。しかし、その言葉には何か含みがあり、佳織は答えに詰まった。

　「え……別に……そういうんじゃ……」

　「嘘。分かるよ。」

　美緒の瞳には嫉妬が揺れていた。

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#### 2. **三角の渦**

　それから数週間、美緒の態度は目に見えて変わった。佳織が玲と話していると、必ず美緒が割り込んでくる。

　「玲、今度佳織じゃなくて私とお昼食べない？」

　「え……いいけど。」

　玲は少し困ったような顔をしながらも、断ることはなかった。

　一方、佳織はそんな美緒の行動に苛立ちを覚えるようになっていた。

　「なんで邪魔するの？ 私、玲さんと話したいのに！」

　「邪魔してるつもりなんてないよ。ただ、私も玲と仲良くしたいだけ。」

　そう言いながらも、美緒の瞳は明らかに挑戦的だった。

　一方で、玲は二人の微妙な空気を感じ取りながらも、それをうまく流していた。どちらにも優しく接する玲の態度は、かえって佳織と美緒の間に緊張を生んでいく。

　「ねぇ、玲さんはどっちが好きなの？」

　ある日、佳織が思わず尋ねた。

　玲は少し黙った後、静かに答えた。

　「二人とも、大切な友達だよ。」

　その言葉に、佳織は心が冷たくなるのを感じた。一方で美緒は、何も言わずに笑みを浮かべただけだった。

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#### 3. **壊れる一歩手前**

　秋が深まる頃には、三人の関係は完全に亀裂だらけになっていた。

　佳織は美緒を憎らしく思うようになり、美緒もまた佳織に敵意を隠さなくなった。そして、玲はそんな二人との距離を徐々に取るようになった。

　「ごめん、今日は一人でいたい。」

　玲がそう言って断る日が増え、三人が揃うことはなくなった。

　そんなある日、佳織と美緒はとうとう直接ぶつかった。

　「美緒、あんた何なの？ 私が玲さんのこと好きだって分かってるでしょ！」

　「だから？ 私だって玲が好きだもん。」

　「……そんなのずるい！」

　佳織が泣きそうな声を上げると、美緒も怒りに顔を赤くした。

　「じゃああんたは何？ 私の気持ちなんてどうでもいいんだね。」

　二人は互いの感情をぶつけ合い、やがて黙り込んだ。

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#### 4. **昇華**

　それから数日後、玲が二人を呼び出した。学校近くの小さな公園。木漏れ日が優しく差し込むベンチで、玲は静かに口を開いた。

　「二人とも、私のことでこんなに苦しんでいたなんて、気づいてあげられなかった。」

　玲の声は、どこか悲しそうだった。

　「でもね、私は……恋愛って、よく分からないの。佳織も、美緒も、どっちも大事で、どっちも失いたくない。でも、それが『好き』なのかどうかも、まだ分からないの。」

　その言葉に、佳織も美緒も何も言えなくなった。

　玲は二人をじっと見つめ、続けた。

　「だから、私はわがままを言いたい。二人とも、私のそばにいてほしい。」

　その瞬間、佳織の中で何かが溶けていくような感覚があった。美緒もまた、肩の力を抜いて、小さくため息をついた。

　「……玲さんって、本当にずるいよね。」

　佳織が笑うと、美緒もそれに続いた。

　「でも、そこが玲らしいんだよ。」

　三人は静かに笑い合った。

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#### 5. **未来へ**

　それからというもの、三人の関係は不思議な形で落ち着きを取り戻した。

　佳織は玲への気持ちを「憧れ」として大切にし、美緒は玲に寄り添いながら、佳織とも少しずつ心を通わせるようになった。

　三人の間には、以前のような緊張はなく、ただ穏やかで清らかな時間が流れていた。

　「ねぇ、いつまでも一緒にいられるといいね。」

　ある日の夕暮れ、美緒が言うと、佳織が頷いた。

　「うん。今度こそ、本当の友達だよね。」

　玲はその言葉に微笑みながら、静かに二人の手を握った。

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　どろどろに絡み合っていた感情は、やがて透明な絆へと昇華し、三人の間には清らかな未来が広がっていった。