第7話 初恋が実らないというのは、本当なのだろうか。
ベルディ国、騎士団長室。
白髪交じりの短髪、彫の深い顔立ちの男が机に突っ伏していた。
頬は赤く、瞼は腫れ、ズルズルと机を涙で濡らしていた。
名前はランド。役職はベルディの騎士団長である。
「ヤマギシ……なぜ私を捨てたのだ……なぜ、なぜ……」
ヤマギシが忽然と姿を消した。そのことは、彼の胸に深く突き刺さっていた。
初めて出会ったとき、ランドは今までに感じたことのない胸の鼓動を味わった。
己が生涯を剣に捧げても届かない高み、常人を遥かに超えた力、それに驕らない人格。
すべてが理想だった。
「弟子に……私を弟子にしてほしかったというのに……」
頼んでは断られ、心に深く傷ついていた。
けれども諦めなければいつか叶う。そう思っていたのに、いつもの宿屋を訪れたところ、彼の姿はなかった。
ランドの頬に一粒の涙が伝った。なぜ、何も言わずに行ってしまったのか――と。
それからは何も手がつかなくなった。
部下への報告も右から左へ、副団長のエリーナやボーリーに心配されても心は一向に回復しない。
ランドは……ヤマギシに会いたくてたまらなかった。
「うう……うう……」
――コンコンコン。
だがそのとき、扉が叩かれる。
ランドはポケットに入れていたハンカチで涙をそっとふき、鏡で髪の毛を整える。
それから喉を鳴らし、声を確かめる。
「……入っていいぞ」
「失礼します。――ランド騎士団長、ご報告に参りました」
「失礼しまーす!」
入室したのは、赤髪のショートカットとピンク色の長い髪、どちらも黒装束を身にまとった女性。
所属は虐殺部隊。アルネ、コーハイ、である。
「任務遂行致しましたので、ご連絡に参りました。トラバの残党と名乗る反逆軍を殲滅し、完全収束致しました」
軽い敬礼をしたあと、アルネが丁寧に伝える。
けれども、隣コーハイは目を細めた。
「うむ、ご苦労であった。さすがだ――」
「ランド騎士団長、瞼腫れてませんかー?」
とんでもなく鋭い言葉に、ランド騎士団長は冷や汗を流す。
だが決して表情を変えなかった。頬をピクリともさせず、渾身の力で抑え付ける。
頭の中にヤマギシが浮かぼうとも、ただ、コーハイを見据えた。
「気のせいだ」
「いや、でもいつもより瞼が――」
「気のせいだ」
有無を言わさない返し、低い声、恐ろしい威圧感により、コーハイは言葉を紡ぐのをやめた。
そして、アルネに肘でこつかれる。
「確かに変わらないかもです」
「そうだ。それで、マンビキはどうした? もしかしてこの部屋にもういるのか?」
通称、マンビキ。
トラバ軍で逮捕されていたが、なんやかんや、本当になんやかんやあって、虐殺部隊に所属することになった。
「いえ、彼には休みを取っていただいております。先ほどお伝えした反逆軍の殲滅ですが、そのほとんどがすべて彼の所業ですから」
「ランド騎士団長、マンビキ凄すぎますよー。最強って、ああいうことを言うんですねー。ヤマギシさんとはまた違う強さって感じですけどー」
コーハイの
何だったら「ヤ」という単語でも少し動揺する。「ヤマ」まで行くともうギシまで考えてしまう。
だが、今までの剣の道がランドを支えた。彼は、微動だにしない。
確かにマンビキの成長は恐るべきものだった。初めは能力にだけ目を向けていたが、飛びぬけた知識は誰よりも凄まじく、一度見たこと、聞いたことはほとんど忘れない。さらにはスポンジが水を吸収するが如く戦闘術を習得していく。
その姿にベルディの誰もが尊敬を超え畏怖していた。
けれども、ランドは一途だった。ヒナが初めて親を見つけてしまったかのように、ランドの心は既にヤマギシに奪われていたのである。
「二人が認めるとは相当だな。何よりマンビキは性格がいい。今ベルディで彼のことを快く思っていないものはいないだろう」
ランドがそう言うと、アルネとコーハイはほんの少しだけ嬉しそうにした。
「早速で申し訳ないが、新たな任務に就いてもらいたい。もちろん、マンビキを連れてだ。エリーナとボーリーは既に同じ場所へ出発しているが」
「畏まりました。一体なんでしょうか?」
「何ですかー?」
アルネが尋ねるとランド騎士団長は壁にかかった地図を見つめた。
その視線の先は、ファリス国。
「テンカイチ、という大会に出場し――優勝してきてもらいたい」
――――――――――――
たった一人の前線~否ッッ!
『捨てられ傭兵は自由気ままに生きたい』
こちらの書籍1巻が10月31日、本日発売致しました!
全国の書店、Amazon、楽天、ブックウォーカーetcなどでお買い求めいただけます。
カクヨムコン10にて3冠を獲った作品ですが、これもすべて読者様のおかげでしかありません。
ですが、またお願いすることになります。
書籍は、初動七日間が非常に大切です。ここで売れなければ2巻は出ず、当然、3巻も出すことができません。
本作品と面白いなと思ってくださっていた方は、ぜひお買い求めいただけるとありがたいです!
内容は加筆修正し、フェルンの宿敵が出るという話になっております。
挿絵や特典なども満載なので、買って損はありません。
詳しくは近況ノートを見ていただけると幸いです。
https://kakuyomu.jp/users/Sanadakaisei/news/822139837781396380
また、サポート限定ではありますがSSを乗せております。内容は、エリーナが、隙あらばフェルンを狙う、という百合ちっくなものが最新で、ほかには「xxxしないと出られない部屋 with ヤマギシ&フェルン (サポート限定)」
「xxxしないと出られない部屋 with マンビキ&後輩」があります。
良ければそちらもよろしくお願いします。
改めまして本作品が書籍まで発売できたのは読者様のおかげです。
本当にありがとうございました!
現在進行形の出来事。
*ヤマギシとフェルンは、テンカイチ出場に向けてファリス国へ移動中。
*不動のロイドも参加表明をしている。
*ボーリーとエリーナも、新しい任務でファリス国へ。
*マンビキ、どうやらめちゃくちゃ強くなっている模様。
*アルネ、コーハイ、マンビキがテンカイチに出場?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます