第10話 王位

 次の年の春を待たずに、国王は亡くなった。いつもより早い。


「泣かない王女が、毒殺したのでは……」


 どれだけ泣いた過去があっただろう。今、私の中にあるのは焦りだけだ。


 その時、驚くべき知らせが届いた。


 彼が魔女からもらった卵はドラゴンの卵で、その卵が孵り、彼が従えているという。まだ非力だが、やがては比類なき存在になるのだと。


「竜が現れるなんて……」


 過去には一度も現れたことがなかった。これで彼が簡単に死ぬことはなくなるだろう。


しかし、それは時間ループを止めようとする時の波の意志なのかもしれない。


『もう、やり直しはしない』


 彼の父がそう言ったという言葉が、私の耳に残っている。


(お前の望みを叶えてやる。その代わり、時を進ませろ!)


「いいよ。それでも、せいいっぱい足掻いてやる」


 少しでも良い条件で、次の時代に繋げるために。


 王国の王位は空位となった。


 私は父の葬儀を身内だけで行うことにした。追放していた第二王子リュカを、王都に呼び寄せることも決めた。


 第二王子は暗殺や投獄を恐れ、最初は拒んだ。だが、国王の葬儀には参列せざるを得ない。


「来年の私の誕生日に、私が女王になります。異論はありますか?」

 

二人の姉も異論は出さなかった。


「お兄様には、私の補佐をお願いします。それと、騎士団長セオに護衛をさせましょう」


「は?」


 リュカが目を見開いた。


 傍目には、私が彼を拘束しているように映るだろう。だが、彼を殺させるわけにはいかない。私亡き後の世界を救ってもらうために。


「お兄様には話があります」


 これから起こることを、言える範囲で話した。


 リュカ王子は驚きつつも、冷静に受け入れた。彼の統治者としての才は確かだと信じているからこそ、私は彼に頼んだのだ。


 大陸は、王国を中心とした連邦国家となった。 国家間の大きな争いは無くなり、新たな枠組みは、多くの恩恵と僅かな不満を生み出した。


「しかし、何のために、軍事力を強化するのですか?」


「人の敵は、人だけでは無い」


「しかし、財源が足りません」


「王族の倉庫にあるものをすべて売り払いなさい。開発した技術を民衆に提供しなさい。緊急事態なのですよ」諸刃の刃なのは理解している。


 その歳、私と彼の誕生日は祝うどころではなかった。すべてが手いっぱいで、彼の誕生日を忘れていたことにすら気づかないほどだった。


「しまった……」


 胸を締めつけるような後悔だけが、私の中に残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る