アルビオン・ブーメラン

 アルビオンが突っ込むのと同時、先制攻撃を仕掛けてきたのはソードルプスだった。

 ワイヤーで繋がっているように視覚で確認することができる、そのスケイルはソードルプスから放たれる。

それは普段ファングが使うスケイルとは異なる、有線スケイルと呼ぶものだとルーデンスは直感した。

 ルーデンスがアルビオンの持つ《ベイルナイト》の武装を奪う能力を起動させようと、ファングの有線スケイルに右手を伸ばす。


「(《ブースト・アックス》のカケラからでもアルビオンブレイドにすることができたんだ。

ファングの有線スケイルを掴めば、有利な武器にできるはず)」


 アルビオンを狙ってくるスケイルを掴み取ると、触れたものを自分の武装にする能力が起動する。

 ソードルプスの有線スケイルは黒、その黒はアルビオンに触れられたことで白銀に染まっていく。

徐々にアルビオンの武装として馴染んでいくのを感じるが、ルーデンスはもう一つのスケイルを見落としていた・・・・・・


「アルビオンの武装は敵の武装を乗っ取ると言うもの。つまり、必要な物はアドリブ・・・・と武装への知識。

ブリュンヒルドがお前の話をする時だけは饒舌になっていた理由がわかる、お前の《ベイルナイト》への愛が強いことを。

カラーリングまで変えられるとは、お前の趣味か?悪くないが、忘れてはないだろうな?」


 ファングはルーデンスの戦法を評価する。

 その言葉にルーデンスがハッとした時にはもう遅く、着装ベイルオンしている《ベイルナイト》そのものをもう一つの有線スケイルに巻きつかれ、捕縛されていた。

もう片方のスケイルを掴んでいる右手を離せば振り解けないこともない、絶妙な力加減である。

しかし、アルビオンの武装の能力を警戒してか、絶妙に手のひらにワイヤーを走らせているため、振り解くこともできない。


「ただの有象無象なら、いまのお前の手は良かっただろうが、あいにくと俺とソードルプスには効果はない」


 ギリギリ、と締め上げたアルビオンにテンポの良い動作で左右の足それぞれで蹴りを入れるソードルプス。

 ベイルバトル終了にして勝敗の条件である、ベイルタルはわざと外しているようだった。


『ソードルプスの有線スケイルのうち、片方を掴んだアルビオン!その武装を我が物にする能力でブラックオックスとの戦いで見せた、快進撃!と思われた!

これが狼王!これが狼漫王マッドルプスファング!我が国が誇る、《ベイルナイト》飛行部隊のハウンズの一人だァ!』


 実況に歓声が上がる。

 正規軍人のベイルバトルは普通は見られないだろうな、と変わり者で広く有名なハウンズのリーダーをルーデンスは思い出す。


「(確かにこんな状況、誰だって面白くもなる)」


 有線スケイルに縛り上げられ、ソードルプスからのゼロ距離攻撃を受けながら、ルーデンスは考える。

 ファングの一撃一撃はどれも重たく、砲弾を浴びさせられているような錯覚さえ抱く。

 ワイヤーに縛られ、身動きが取れないが、ルーデンスはあることに気がついた。

それは、ソードルプスがある一定の間隔で《ベイルナイト》から落とす魔力貯蔵ラクリマを落としている様子。

しかし、それに気づいたところで今の自分が何かできるわけではない。

 ソードルプスの心臓部ベイルタルをわざと狙わないことはルーデンスも気づいている。


「どうする?アルビオン。ブリュンヒルドであれば、こんな状況は一太刀で切り開くだろうな」

「アステル・クレスとのバトルで俺が言ったのを聞いてなかったのか?第二位・・・


 ギリギリとワイヤーで締め上げられ、身体が悲鳴を上げる中、ファングの煽りにルーデンスは不敵に返す。

 武装の一つである以上、ソードルプスの有線スケイルもただのワイヤーではない。

 捕食者が食らいついたものを離さないようにワイヤーが締め上げるのだ。

もがけばもがくほど、執拗にである。


「……ほう?」


 ルーデンスの煽りにファングはこめかみをひくつかせる。

ブリュンヒルドならやらなかったような芸当を同じ姿・・・でするルーデンス。

 ランカーとは、すなわち公式で認められた最強の着装者である。

そんなランカーである以上、ファングも実力者であることには違いない。

たとえ、それが姉が失踪しても・・・・・・・一位になれなかったとルーデンスが見なしてもだ。


「どんなつもりであんたがスケイルルプスにしなかったのかはわからない。

でもな、それで俺に負けても文句言うんじゃないぞ!」


 ルーデンスは手に奔るワイヤーに対し、アルビオンの武装化を試みる。


 ワイヤーから抜けられない。

 引きちぎることもできない。

 

だったら、武器にして奪い取ってしまえばいい。


 徐々にソードルプスの有線スケイルをアルビオンが支配下におさめ、拘束が緩む。

 排出される魔力貯蔵ラクリマがまた一つ、二つとソードルプスから落ちた時、アルビオンがそれを蹴り上げて右手に触れさせる。

 それ・・が手に触れる時、アルビオンは湾曲した白銀のブーメランのようなものを形成し、ワイヤーを切り刻む。


「なるほど、有線スケイルの拘束を武装化することで緩め、俺の使い捨て魔力貯蔵ラクリマを武装にして改造してみせたか!」


 ファングは使い捨てた魔力貯蔵ラクリマさえも武装にし、ブーメランのようなものを形成してアルビオンを包むワイヤーを切り刻む。

おそらく、使い方はスケイルのように意識を集中させているのだろう。

それでいて、土壇場で生み出した白銀のアルビオンブーメランと呼ぶべき代物を使いこなした様は天才としか言えない。


「だが、そうやった後は?どう来る?どうやって俺に勝つつもりだ?ブリュンヒルドの弟!」


 ファングは左拳で有線スケイルを握り込み、魔力貯蔵ラクリマを排出しながら、勢いをつけてアルビオンに殴りかかる。

どれだけの魔力貯蔵ラクリマを《ベイルナイト》の展開や武装の維持に使用しているのだろう、とルーデンスは考える。

 ファングの拳に対し、応じるかのように自由になった右腕を突き出すが、不意をつくようにルーデンスはソードルプスのベイルタルをブーメランを握った左手で突き刺す。

ソードルプスのベイルタルが砕けた時、静寂が包み込んだ後、一気に歓声が上がった。


「……フフ、ハハハハ!!これがランキング戦ならどれほど良かったか!お前の勝ちだ、ブリュンヒルドの弟!」


 うまくいったことに信じられなかったルーデンスが呆気に取られていると、ファングは大の字になって着装ベイルオンを解き、薄汚れたフライトジャケット姿で倒れ込んだ。


「化けるぞ、お前は」


 ファングの言葉と客からの歓声にルーデンスはチャンピオン・ポーズで応えた。

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