第2話 特別な人。
「……はぁ」
「明日香、大丈夫?」
今日、何回目かのため息をついたとき、隣にいた清春が心配そうに声をかけてくれた。
「いや、ちょっとつかれただけ」
「え!? 大丈夫?」
「うん」
私は机におでこをコツン、とつける。
「あのさ――」
ガラッ
話を続けようとしたとき、教室のドアが開く。
キャー!
同時に、女子の黄色い声も聞こえて、ドアの方へと視線を移す。
「うっわ」
私は、明らかに嫌そうな顔をした。
視線の先にいるのは、ニコニコと笑みを浮かべる、イケメン男子だ。
「明日香! 今日一緒に帰ろ」
教室にいた全員の目が、点になった。
「……え、え!? 衛宮先輩と水無月さんってそういう関係!?」
「うそー!」
ああ、面倒くさいことになった。これだからこの人は。
「衛宮、学校ではやめて」
そこまで大きな声じゃないけど、ハッキリとした口調でしゃべる。
「いいじゃん。どうせ従兄妹同士なんだし! あとしっかり”
「はぁ……瑠衣、今日はだめ」
「OK!」
(よかった、あっさり引いてくれた)
ほっと息をつき、席に座る。
私と瑠衣は従兄妹だ。いつもだったら「絶対に学校で話しかけないで」って言うからなんにもしてこないんだけど……。
「――ねぇ! なんで断っちゃったの!」
「えっ、ていうか先輩と従兄弟なの!?」
「カレカノ?」
なんて考えていたら、急に私の周りにどっと女子が押し寄せる。
(うるさいなぁ――)
これだから、チャラい人は苦手だ。
だんだん、モヤモヤとしたものが頭の中にたまっていく。
「水無月さ――」
「……私、恋愛とか興味ない」
「えー、でもぉっ」
キッと女子の一人を睨む。
「なに? まだなにかあるの?」
トーンを落として、相手を黙らせる。
「い、いや……?」
その女子はササッと教室のすみへ行き、他の子となにかヒソヒソ話し始めた。
――はぁ。
私は、声にならないため息をもらした。
* *
放課後。
雪が「大丈夫?」と声をかけてくれたけど、適当に答えて玄関から外へ出る。
「大丈夫」
(なわけ、ないよ)
やってしまった。
あの女子達は関係ないのに、八つ当たりで怒ってしまった。
「はぁ」
「――明日香っ」
声がした方を向くと、彼――清春が、息を切らして肩で呼吸をしながらそこにいた。
「なに?」
「衛宮先輩が従兄弟って、ほんとう?」
「……は?」
思考停止。
(ああ、そういえば……)
「うん」
清春がガーン、とショックを受けているのがすぐに分かるくらい顔を青くする。
「……っふ、あははっ。清春って、ほんとうにかわいいねっ」
キョトン、とするところも愛おしくて、私はまた笑い出す。
「え……?」
夕日が、私の髪を照らす。
さっきまで落ち込んでたのに、清春がしゃべっただけでこんなにも気持ちが違う。
こんなに単純だったかなぁ、私。
「じゃあ、バイバイ」
そのまま、帰ろうと歩き出したら――。
「まっ、まって!」
ぐいっと制服をつかまれた。
「そのっ……よかったら、明日いっしょにご飯食べない? ほかの男友達もいるかもだけど――」
「いいよ」
えっ? と目を見開く清春。
「一緒に食べよう」
清春の顔が、みるみるうちに笑顔になっていく。
「うんっ! バイバイ!」
少し、というか大分楽しみにしていた、お昼休みのチャイムが鳴る。
『じゃあ、屋上で。友達とか連れてきていいよ』
清春がそう言っていたので、雪に来てもらうことになるはずだったんだけど、残念ながら今日雪は休み。
私は意を決して屋上の扉を開く。
カチャッ
「あっ、明日香!」
清春が、ひらひらと手をふる。
そのとなりには、男子が二人。
「紹介するね。こっちが
「よろしく」
「よろしくっ」
竹内君はメガネをかけていて勉強家そう。そして、氷室君が逆にやんちゃそうな顔をしている。
「あ、えと……私は水無月 明日香。よろしく――」
「いや、まさか清春が女の子連れてくると思わなかったわ」
「そうだな。清春は基本、女子にも男子にも認知度が低いイメージだったよね」
「うるせい」
あはは、と清春が竹内君たちとじゃれ合う。
「清春ってあんなにかわいいのにモテないんだ」
思わず、声にしてしまった本音。
この言葉を聞いた瞬間、竹内清たちがブフッと吹き出す。
「ふっ、ははっ! 聞いたか清春!」
「もう三、四回くらい言われてる」
ぷぅ、と頬をふくらます清春。
「……あれ? 今日はそこまで怒らないね」
「どういうこと?」
「いつもだったら清春、”かわいい言うな!”って怒るんだよ。コンプレックスで」
「え゙!?」
(うそ! 悪気なく何回も言っちゃった!)
私は顔を青くして春に頭を下げる。
「ご、ごめん。コンプレックスって知らなくって……!」
「いや、いいよ。なんか、明日香が言う”かわいい”は別に嫌な気分にはならないし」
かぁっと顔が赤くなるのがわかって、冷静をよそおうと笑顔を作ろうとしたら、逆に固くなってしまった。
「そ、そう? よかった」
落ち着こうと一旦水筒の水を飲む。
「……水無月さんて、春のことが好きなの?」
「「ごほっ!」」
竹内君の問いに、私は飲んでいた水が気管の中に入り、むせる。
そして、ちょうどだし巻き卵をほおばっていた春もむせていた。
「ごほっ……どういう意味?」
「恋愛として好きかってこと!」
竹内君は、ニヤニヤと笑いながら聞いてくる。
この人、わざとやってるのかな……。
私は平静を装ってすまして答えた。
「……さあ? まぁ、もしかしたら春か、それとも竹内君か、氷室君に今、恋をしてるかもね?」
少し、いたずらっぽく笑ってみせる。すると。
「っ……」
三人とも耳まで真っ赤になっていた。
「…………こういうのなんていうんだっけ? ――赤面?」
「「「うるさい!」」」
あはは、と私が笑う。
すると、氷室君が不思議そうに首をかしげた。
「……水無月さんって、女の子にしてはめずらしいタイプだよね」
「よく言われる。自分ではよくわかんないけど」
「普通、男の子がからかうとこでしょ」
「別にいいじゃない」
私はニッコリと不敵な笑みを浮かべる。
「……すごいなぁ」
すると、春が私を見つめながらぽつりと呟いた。
「なにが?」
「あ、いや、初対面なのによくそんなにしゃべれるなぁって。僕だったら緊張しちゃうのに」
「清春、女の子みたいなこと言ってるな」
「本当は女の子なんじゃないのか?」
清春は「ちがう!」と言いながら顔を真っ赤にする。
そんな姿に笑いがこらえきれず、クスクスと笑ってしまった。
「あ、じゃあご飯食べ終わったから教室戻るね。今日はさそってくれてありがとう」
よいしょっと立ち上がろうとした時。
「あっ、ま、待って!」
パシッと音を立てて、手を掴まれた。
ボッと顔の熱が上がる。
そして、鼓動がドッドッドッとあり得ない速さで鳴る。
「よ、よかったらもっと話さない?」
「っ……」
はにかむような笑みに、キュンと心射抜かれる。
「――うん」
私も、少し不自然かもしれないけれど、笑顔を返した。
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