True Eye 【season1】
狼谷 恋
-War 1- 戦争を終わらせる戦争屋 Ⅰ
【Phase1:シルヴィア】
自由になりたい
そう思い始めたのは遠い昔の事だった
この世界には戦争が満ちている
奴らの存在がこの世界を破滅に導いているからだ
私達はTrue Eyes Mercenary Company
通称TE部隊や真実の目と呼ばれる傭兵組織だ
こんな世界情勢じゃ食いっぱぐれのない職業,金になる仕事などと言われている
子供の将来の夢が傭兵,なんて言われるくらいには酷い状況だ
傭兵という職業に身を置きながら傭兵という存在はどれだけ無駄なものかと思う
争いなんか無くて平和な世界だったら…って思う事はよくある
命の危機を感じなくても済む様な世界
だが現実は残酷だ
今まさにその正反対の場所にいるのだから
「おいルーシー!こっちに薬莢飛ばすんじゃねぇよ!!」
「あんたがそこにいるのが悪いんでしょうがぁ!」
「あれ?もうお酒無くなっちゃった?誰かー!ウォッカ持ってないー?」
「私はウィスキーがいいっすねぇ!」
「あのなぁお前ら……任務中なの忘れてないか?」
某日,とある紛争地域
長期化する戦争を食い止めるべく私達TE部隊にとある依頼が舞い込んだ
依頼内容は至ってシンプル
敵勢力の無力化だ
作戦内容も至ってシンプルなもの…ではなく,隊員達の暴走によって非常にシンプルなものに変えられた
本来であれば戦場に足を運ぶのはある程度掃討作戦が済んだ後になる筈だった
目標のポイントまで車両で移動して様子を見る,その後敵の拠点を爆撃,消耗したところを叩く…それが本来の作戦
それがどうだろうか
敵さんは随分と活きがいい
それもそのはずだ
ルーシーが勢い余って敵陣まで車で送り届けてくれたのだから
そんなこんなで現在応戦中なのである
飛び交う弾丸の数を数える気にもなれない
そりゃそうだ,敵拠点だ
弾薬なんて余るほどあるだろう
『あーあー,こちら荒川,咲夜聞こえてる?』
「聞こえてる,向こうの様子は?」
『それがさぁ…危なっ!?ソフィーが偵察なのにぶっ放しちゃってさ…絶賛私達追われてるんだよね』
「はぁー……」
どいつもこいつもまともに指示通りに動けないのか
言い忘れていたが私はこのTE部隊の隊長だ
作戦を立て,隊員を纏め上げ,迅速に任務遂行を行う
だと言うのにどいつもこいつも個性の塊過ぎてまともに扱えたもんじゃない
まともなのは私だけらしい
いい加減隠れているだけじゃ状況の打破には繋がらない
寧ろ作戦通りにいかない事が大半だ
いつも通りのやり方でいこう
「全員聞け,これより強行突入を実施する,荒川,ソフィーの両名はそのまま敵の撹乱,釘付けにしておいてくれ,ルーシー,Vの2人はここから援護,カレンと美香は私と一緒にこのまま敵陣に突っ込む」
「「「「「「「了解」」」」」」」
どうしてこいつらは最初から言う事を聞いてくれないのだろうか
だが問題点を挙げるとすればそこだけとなる
私は物陰から体を乗り出して敵陣を真っ向から突破する
撃たれる心配?
それはない
荒川とソフィーが一部の敵を釘付けにしている
それに私達の後方からはルーシーとVが支援をしてくれている
「おいルーシー!てめぇ私と同じ敵狙うんじゃねぇよ!」
「早いもの勝ちだって〜,なんなら勝負でもするかい?」
「上等,秘蔵のボトルを賭けてやるよ」
2人ともあぁ言った感じで仲が良いのか悪いのか,事あるごとに口喧嘩をしているが実力は確かだ
私の目が敵を視認した時には血飛沫をあげている
撃たれる心配はない,寧ろ隊員を信頼出来ず何が隊長だろうか
「カレン!目の前の瓦礫をぶっ飛ばせ!」
「了解っしょ!」
一々足を止めてもいられない
障害物を吹き飛ばすのはTE部隊の中で最も危険な爆弾魔,カレンである
構えたRPGを瓦礫の山へと叩き込み破壊する
爆炎の中私達は走り抜けていく
「美香は右を頼む,私は左を」
「了解,隊長」
爆炎を抜けて建物内へと侵入
建物内への敵は自分達で対処しなくてはならない
先程の爆撃によって1階部分は煙が充満している
奇襲を仕掛けるには最も都合が良い
「クリア!」
「よし…このまま制圧するぞ」
たったの1分だ
1階部分の制圧を終え2階,3階も同様に進んでいく
的確に敵を倒しながら中枢を叩く
これがTE部隊の戦い方だ
TE部隊という傭兵の理念は戦況を見極め,最も効率的な手段を選択し,敵の即時殲滅だ
それ故に名付けられたTrue Eyes,真実の目,全てを見抜く目を持つ者達という意味だ
実際名に恥じぬ戦果を上げてきた
だが隊員達がもっとまともなら更なる戦果を上げられているのだろう
あくまでこの個性の強過ぎる集団が命令を聞かずに一悶着した後に任務を果たす,それが結果的に他の傭兵組織よりも早いだけの事
皮肉なものだ
けれども結局他人からの評価よりも自分達が何を成しているのか,重要なのはそこだ
金の為?
正義の為?
そんな目的で傭兵になった訳じゃない
戦争を終わらせる
私達TE部隊の真の目的だ
戦争を終わらせる戦争屋
私達TE部隊に付けられた異名だ
この世界には力を持った存在が多過ぎる
企業,テロリスト,数え出したらキリがない
個人でそれらを一々相手にしていたら時間がいくらあっても足りない
だからこその傭兵組織だ
金次第で如何なる戦場にも足を運び確実に依頼をこなす,今や政府からの非公式の依頼も舞い込むくらいだ
そしてそれらを実行する為の力,実績がある
仕事を選ばないのにもメリットがある
依頼してくる連中は幅広い,得られる情報も多種多様
そして傭兵組織に仕事を任せたい連中はいずれも力を持った人間達だ
否が応でも私達は戦場に行かなければならない
だが依頼をこなす度に1つ,また1つと戦争の種が消えていく
少しずつだが確実に戦争を終わらせる機会に近づいている気がする
少なくとも金の為や忠義の為に戦っている奴等とは同じ道を歩んではいない筈だ
「クリア…随分と静かになりましたね,隊長」
「そうだね…けどターゲットはまだ確認出来てない,美香,ドローンの展開準備を」
「了解です」
「咲夜ー?私はなにしたらいいっすかね?」
「何もするな,ビルの倒壊に巻き込まれて死ぬのは勘弁してもらいたいからね」
今回の様な仕事も日常茶飯事だ
ターゲットの殺害,及び組織の壊滅
それも一般市民を巻き込むのも躊躇しないテロリストだ
わざわざ野放しにしておく理由もない
「さて…最後はこの部屋だな」
「カレン,グレネード,もちろんフラッシュグレネードよ?」
「分かってる分かってる,まーったく私の事を信用しないんだから…ねっ!」
扉を開け隙間からフラッシュグレネードを放り投げる
数秒後,爆音と共に閃光が部屋を満たす
「ムーブ!ムーブ!」
室内へと突入して銃を構える
「……?誰だ?」
「うぅ……まだ目が見えない……悪いんだけどもし銃を向けてるなら下げておいて貰えると助かるわ…私は敵じゃない…」
目の前には1人の女性が屈んでいた
敵意は無い
仮にあったとしてもこの状況ならこちらが先手を打てる
銃を下ろし彼女と話してみるとしよう
「何者だ?何故ここに……ってそこの死体は…」
「ターゲットに間違いなし…と,そこの彼女についてもデータベースに該当者あり…とりあえず拠点にデータは送っておくわ」
あらかじめデータを送信しておくのは万が一に備えてだ
もし彼女が敵対し,私達が無事に済まなかった場合の保険
拠点にデータさえ送っておけばお礼参りくらいしてくれるだろう
「シルヴィア・ガブリエラ…年齢20,フリーランスの傭兵……データ通りなら偶然私達と同様の依頼を受けた同業者…ってところね」
「ありがとう美香,大体分かった」
「さっきも言った通り私は敵対するつもりもない…ごめんなさいね,貴女達の獲物だったなんて…」
「気にしないでいいよ,早い者勝ちだしね,寧ろ助かったと言うべきかな」
「…さっきそっちの人が私について調べてたみたいだけど…改めて名乗らせて貰うわ,私はシルヴィア・ガブリエラ,依頼を受けてここには来たわ」
「私達はTE部隊,隊長の一ノ瀬 咲夜だ,そっちのドローン使ってるのが美香,んでそっちの赤いのが」
「どうもカレンっす!」
「TE部隊…まさか戦争を終わらせる戦争屋と出会えるなんて…ね」
依頼主は何が何でも連中を殺しておきたかったらしい
全く報酬はどちらに支払うつもりだったのか
帰ったら問いただしてみるとしよう
『咲夜,聞こえるか?』
「ルイス?珍しいな,任務は無事に終わった,これから帰投するよ」
『送られてきたデータを見た,そこの彼女を連れてきてくれないか?』
「あー…聞いてみてからになるけど…なんで?」
『聞きたい事があってな』
ルイスが他人を気にするなんて珍しいこともあるもんだ
傭兵企業TE部隊社長であり私の旧友
そんな彼女が偶然居合わせただけのシルヴィアに興味を持つとは思いもしなかった
「あーシルヴィア?急で悪いんだけど…どうやらうちの社長が会って話したい事があるらしい,一緒に来てもらえないか?」
「…?私に…?別に構わないけれど……ツッ!」
「…!?」
その時だった
シルヴィアがナイフを抜き私の横を走り抜けた
銃を構え直す時間もなかった
振り向くと部屋の外には首を掻っ切られた男が倒れ込んでいた
まだ敵が残っていたのか…?
「油断大敵…ね」
よく見るとこんな場所に来るにしてはシルヴィアは随分と軽装だ
恐らくシルヴィアの武器はあのナイフなのだろう
私が銃を構え直す隙もなかった
もしシルヴィアが敵対していたのなら私は死んでいたかも知れない
「任務完了,全員回収ポイントまで急げ,余計な事はしないで爆発もさせるなよ?」
「それ絶対私のことっすよねぇ!?なんでそんな私に辛辣なんすかぁ!」
何はともあれ任務自体は終わった
あとは早々にこの戦場からおさらばするだけだ
まぁヘリの運転するのは私なんだけど,あいつらを乗せるとなるとかなり疲れるんだよなぁ…
TE部隊/輸送ヘリ内
「……………」
「……………」
「……………」
空気が重い
まるで他人のクラスに勢いよくおはようと言いながら入ったみたいだ
それもそうだろう
見ず知らずのシルヴィアがヘリ内にいるからだ
TE隊員はどいつもこいつも癖が強過ぎる個性の塊だ
だが隊員同士なら多少の会話やトラブルは起きるだろう
だがこのシルヴィアという人物については私自身もよく知らない
皆が警戒心を抱くのも当然だろう
まぁ私はただヘリを操縦してるだけだからそんな空間にいなくてマシとは言えるが
「…えっと……こんにちは?」
「………こんばんはだろうが,金髪」
「あはは…それもそうね…私はシルヴィア,シルヴィア・ガブリエラよ」
「……………」
「挨拶くらい返したら?V」
「うっせぇよルーシー,私はイライラしてんだ」
「勝負に負けたからぁ?相変わらずガキみたいな心しか持ってないね〜,お酒は貰うけど」
「んだとてめぇ…」
「V頼むからヘリの中で暴れないでくれよ…」
「てめぇの運転よりはマシだろうが荒川!!!」
「やめやめ,また墜落するのはごめんっしょ?」
「墜落させたのは荒川なんだけどなぁ…?」
「…………」
シルヴィアが唖然としている
それもそうだろう
先程まで嫌な静けさが満ちていたヘリの中は喧しいくらいだ
口を開けばすぐ様喧嘩
主にVの所為なのだが…
「ったく…私はさっきも言った通りTE隊長の一ノ瀬 咲夜,お前ら一応自己紹介しとけー」
「私はカレン・ライリーっす!よろしく頼むっすね!」
「荒川 静ここの隊員は皆おかしな奴ばかりでね,やっぱりまともなのは私だけか」
「ルーシー・アルゼンバーグ,専ら車弄りが趣味だぁね」
「九条 美香,主にドローンでの偵察,戦闘担当よ」
「ソフィー・イリーナ,偵察兵よ」
「…………Vだ」
おかしいな
自己紹介した筈なのに会話がちっとも弾まない
まぁこいつらにそんなことを望む方が酷かと思っておこう
「…ところでお酒はまだあるかい?」
「カレンが全部呑んじゃったわよ」
「アタシのウィスキーはぁ!?」
「てめぇ!!私の苺酒まで呑みやがったな!?」
「任務に酒を持ち込むなんて御法度っしょ?だから呑んだ!証拠隠滅も出来て一石二鳥っしょ!」
「任務中に呑む方が御法度だろうが!!!てめぇぶっ殺す!!!」
ほらまた始まった
なんでどいつもこいつも喧嘩しか出来ないんだ
いやトラブルを起こすカレンもカレンだ
だからトラブルメーカーなんて呼ばれる
「はぁ…ソフィー」
「チェェェェエストォォォォォ!!!!」
「おぶっ!?」
「…まぁこのくらいで勘弁してあげて,V」
「ちっ…このままヘリから落としてやりてぇ…」
「やめろやめろ,死にはしないだろうけど怒られるの私なんだから…」
本当に喧しい
ヘリの中くらい静かにして欲しい
こんな密室で荒げた声を出されたら耳がキンキンする
「……ふっ……ふふふっ……」
「………?」
シルヴィアが口を押さえて笑っている
「まさか戦争を終わらせる戦争屋の人達を見る事になるとは思わなかったけど…なんだかみんな仲良いんだなって」
え?
どこに仲良い要素があった?
そして何でそれを笑ってる?
常識人に見えて実はそうでもない?
「貴女達の噂は知ってるわ,戦争を終わらせる戦争屋TE部隊…またの名前を真実の目,政府からの非公式な任務も請け負う…そしてその実力は傭兵業界ではトップクラスってね」
「そんな大したものでもないよ,私達はこんな戦争ばっかの世界から戦争を亡くして平和の為に戦っているんだ,それに奴らをーーー」
「喋り過ぎだ荒川,てめぇもラリアットくらうか?」
「それは勘弁してもらいたいね…」
「えっとソフィーさん…で良かったわよね?さっきのラリアット凄かったわ…」
「ん…?あぁ,とある人の賜物よ」
「でもカレンさんは…?」
「気絶してるだけだ,こいつは死なねぇよ,異能体だからな」
「異能体……?」
「知らなくていい,そいつはめちゃくちゃ身体が頑丈ってだけだ」
「なるほど…Vさんは…」
「メディック,こいつらの治療が仕事だ」
「……ん?おいV?お前タバコ吸ってるだろ?」
「ルーシーも吸ってるだろ」
「ったく禁煙だぞここは…拠点じゃ吸わない癖に…」
「だから今吸ってんだろうが」
「それにしてもシルヴィアさんは随分と身軽な格好ね…すごく身軽…うふふ♡」
「え……きゃぁぁぁぁぁあ!?」
「なんだ!?どうした!?……ってまたか…」
「股だね」
「黙れ荒川」
美香は美香でいつものセクハラだ
シルヴィアのスカートを覗き込んでる
そりゃ悲鳴の一つや二つ上げるだろう
「ふ〜ん…うふふ…」
「ごめんよシルヴィア,見ての通り皆おかしいんだ,だからまともな私が会話相手になるよ」
「なぁ咲夜,こいつが本当にまともかどうかヘリの操縦桿変わってやれよ」
「私らに死ねって言ってる?却下」
まぁ…
内容はどうであれ静かよりはマシになった
「ふむふむ…ルイス自らね…何かやったのかい?」
「やってない…と思うけど,私も正直何で呼ばれたのか知らされていないわね…」
「まぁでも社長のルイスが呼ぶくらいだから何か大切な話があるんじゃないかな,それに拠点に外部の人をいれるなんて滅多にない事だよ」
「そうなの?」
「大抵入ったら死体になって出てくるからね」
「てめぇもそうならねぇ事を祈るんだな,金髪女」
「……確かにそれはごめんね…」
確かにルイスがシルヴィアを拠点に連れてこいって言ったのには内心驚いている
普段は敵兵なんかを連れ帰る事はあるけどもその末路は悲惨としか言えない
一晩中拠点の地下室から悲鳴とチェーンソーの音が響き渡る
ある程度距離が離れた寮の自室にいてもだ
もう少し防音対策をして欲しかった
けど敵でもない,経歴にも妙な点は見られなかった
そんなシルヴィアに何の用事があって呼び出したのだろうか
まぁそれも拠点に戻ればルイスの口から伝えられるだろう
任務の疲れもあって若干眠い
このまま眠りに落ちてヘリを落下させたら荒川にすら笑われる
安全運転を心掛けよう
眠気覚ましのミントが爽快感を与えてくれる
『ねぇ咲夜,ミント食べる?』
「……………」
…少し思い出したくない事を思い出してしまった
まだ私自身が乗り越えられていない証拠だろう
いつまでも立ち止まってはいられない
それに私にやれる事はこれしかない
同じ過ちは2度と起こさない
2度と起こしてなるものか
私が戦う理由の1つだ
さて,このままいけば夜明け前には拠点に着けるだろう
相変わらず後ろの方は五月蝿いけど目を瞑る
もちろん物理的な意味じゃなくてね
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