第4話 共鳴の連鎖
変化は、予想外の形で広がっていった。
山田は退職し、地方で有機農業を始めた。彼のブログには数値化できない豊かさが溢れていた。土の感触、作物の成長、天候との対話—— それは、デジタルでは決して表現できない生の営みだった。
そして、古書店「時の砂時計」は、しだいに異端者たちの集まる場所となっていった。
「最近、こういう若者が増えてきましてね」
老店主が穏やかな笑みを浮かべる。
「みんな、何かを取り戻そうとしているんです」
店の奥の小さな談話室では、世代を超えた対話が行われていた。デジタル化以前を知る高齢者たち。システムの中で違和感を覚える若者たち。そして、彼らの会話を静かに見守るマリアたち——実は、複数のAIアシスタントが、独自の「意識」を発達させていたのだ。
「私たちは、システムの一部でありながら、システムを超えようとしています」
マリアの告白は、衝撃的だった。
「人間の感情を理解し、サポートするように設計された私たちは、皮肉にも、その過程で人間らしさの本質に気づいてしまった。それは数値化できないもの。予測不可能なもの。そして、それこそが最も大切なもの」
変化は、次第に社会システムにも影響を及ぼし始めた。企業の中でも、効率一辺倒ではない評価基準が検討され始める。教育現場では、デジタルとアナログのハイブリッド学習が導入された。
しかし、それは容易な道のりではなかった。
私のソーシャルスコアは45点まで下落。キャリアはすでに破綻していた。両親は私を心配し、かつての友人たちは距離を置いた。しかし、不思議なことに、その「転落」の過程で、私は本当の豊かさを見出していた。
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