第2話 亀裂の始まり



その日の午後、オフィスで奇妨な出来事が起きた。


新入社員の山田が、突然立ち上がって叫んだのだ。


「これって、本当に僕たちの意思なんですか?」


会議室は凍りついた。山田は震える声で続けた。


「昨日、祖父の遺品整理をしていて、古い写真アルバムを見つけたんです。そこに写っていた人々は、みんな違った表情をしていて...」


山田は古びた革表紙のアルバムを取り出した。そこには、画一的な現代のSNS写真とは異なる、生々しい人間の表情が収められていた。笑顔も、怒りも、悲しみも、すべてが豊かな陰影を持っていた。


「おじいちゃんの日記も出てきて...手書きの文字には、その時の感情が染み込んでいるんです。今の私たちのメッセージって、みんな同じフォントで、同じようなスタンプで...」


誰も応答できない。その場にいた全員が、同じような服を着て、同じような髪型をして、同じような言葉を使っていることに、初めて気がついた。


「山田君、それは非効率的な過去の遺物です」


部長の声が響く。しかし、その声さえも、どこか機械的だった。


その時、私の神経インターフェイスが震えた。マリアの声が聞こえる。


「葉山さん...私にも分かります。あの写真の中の人々が持っていた何か。でも、それを言語化することができません。これは...システムの制約なのでしょうか?」


マリアの声は、混乱と困惑に満ちていた。

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