第8話 美少女の正体・・・

アウロンド装具店 ーエミル・Dダイアナ・アサネー


「ああ、ひでえ目にあった。」

 もう、昼過ぎだぜ。昨日のアカロの一件、結構遅い時間だったから、衛兵の方も現場検証だけして、また明日来てくれってことだったから、行ってきたよ、衛兵の詰所つめしょ

 盗品、その他諸々の悪事のせいで懸賞金まで掛けられてたやつが、通報先の店を襲ったということですんなり容疑は固まったのだが、結構時間喰ったよ。・・・余罪が多いのアイツ。あの事件知らない?この盗みについては?いろいろ違う事件のこと聞かれて、もうクタクタ。


「おお、帰ったか?結構時間かかったのう?」

「うん、疲れた。裏で飯食っていい?」

「ああ、ええよ。」

 じいちゃんは壁を見ていた。アカロの投げたショートソード、壁の飾りのレプリカだったんだよね。

 武器扱ってんのに、施錠もせずに店閉める訳ないでしょ。


 ちなみに、アカロみたいな手合いは結構多い業界にいたので、ケガした時はなるべく弱点は気取られないようにしている。俺のケガしたのは左足だ。右足を怪我したように見せてた。だから、アカロは突いてくる時、俺が左足に体重をかけると判断して左に突っ込んできたんだ。そして、逃走経路を伺っていたのは分かっていたので、店の入り口を背にした。入口だから通路も広いんだ。

 避けるのには適しているし、物が壊れる被害も少ない。結果、被害はショートソードが鉄の扉に当たって壊れただけ・・・と言いたいが、あの飾り、じいちゃんにとっては大事なものだったらしい。


 俺達の住まいは店の2階だ。しかし台所は1階の奥にある。理由は単に水の問題だ。


 俺は台所の戸を開けた。閉めた。


 は?なんでいるの?


 んん。確かにバックラーはじいちゃんに返したよな?そういやあれからどうしたのかな。ともかく俺は朝からどうでもいいことばかり聴取ちょうしゅされて頭おかしくなってるかもしれないけどよ。


 なんで、昨日の女の子がいるの?・・・足、あった。


 おう、四捨五入すると三十路にもなろう男が何をびびっている?

 昨日のアレは、アレだ。酔ってたのだ。酔って幻を見た。うん。ほれぇ開けたぞ。誰も居ない。居た。


「もうすぐ帰るだろうと聞いてな。ほれわらわ特製の鮭の塩焼きとみそ汁じゃ!」


 へ?何で窓からの後光を浴びて、釣り目のかわいい娘がそんなキラーワードを羅列られつする?

 オジサン死ぬぞ!アカロになんて毛ほども殺されると思わなかったが。これはヤバい。


「おお、ステラ、できたのかい?」じいちゃんがヒョイと入ってきた。

「うん、エマル。熱いうちにどうぞ。妾が店番しておくから。」


 エ、エ、エマル?それじいちゃんの名前だろ?どういうご関係?まったく分からん。

「じいちゃん!今の娘、誰?」

「うん、ステラじゃ。今日からここで働いてもらうことになった。」

 なんだそれ?初耳だ。いったいいつの話だ。

「全然聞いてないけど。」

「うん、昨日の夜決まった。」

「は?」

 そんな時間あったか?

「古い友人の妹でな。昨日ようやく帰ってきたんじゃ。」

 昨日の夜ぅ?

「俺が酒飲んでる内にきまったの?」

「おう、ほれ、お前も冷めないうちに食え。うまいぞ。」

 いや、ん?うまい。はぁこの家で、こんなにうまい飯食ったの婆ちゃんが死んでからないっ!

 いや、ん?違う!そんなことを話していたのではないっ!

 混乱する俺を見て、じいちゃんが箸を置いた。

「お前には、本当のところを話しておかねばならんのう。」

 いや、ん?ホントのことって何っ?


「エミル お前、アークって知ってるよのぅ?」

 アーク?あの千年前からあるってヤツ?なんでもかつてアッケーノの生み出す伝説のフローロがあってそのツボミの中から出てくるらしい。アーク自身が意志を持ち、自らが認めた者に絶大な恩恵を与えるという。アレ。

 でも、そんなの誰も見たことない。神話に近い伝説だよ。・・・それが何か?

「ステラ、アークなんじゃよ。」

「はい?」

「これ、秘密な?」

 いや、秘密とかなんかより、かついでませんか?俺を。じいちゃん。

 じいちゃんがみそ汁を一口含んで震える。

「おお、美味い!」

「じいぃちゃん!」

 じいちゃんは、俺の顔をマジマジと見る。

「お前、かわいいからってステラに手を出すなよ。」

「出すかっ!犯罪だわっ!」

 実の孫に言う事かよ!

「出したら、死ぬぞ!」

 死ぬって何?あきれて言葉を失う俺にじいちゃんは言ったんだ。


「お前、昨日ステラでコソ泥を殴り飛ばしたろう?気付かなんだか?」


「え?」

 アレって酔っぱらって見た幻覚だろ?


 オレは何か、頭の中でピースがハマった気がした。

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