界威剣のマイスター 好きだったラノベの世界に転生したらヒロインの兄だった。そして悪役に絡まれます・・・

kuondou

第1話

旭野光芽が朝目覚めて最初に行なう事。それは道場の掃除である。剣道を行なうような道場であるため床は板張り。そこは最初はほうきで掃き、その後ぞていねいにぞうきんを掛ける。そうしないと足の裏が汚くなるだけでなく、裸足で行き来為るため、足の脂が床に付き、汚く見えるのだ。そのような汚い場所で自主稽古をするなど光芽は嫌なのだ。神聖なる稽古の場。綺麗に為ることから朝の稽古は始まる。


 その後に軽くストレッチを行い、そしてようやく木刀を手にして鏡の前に立つ。道場にある鏡は自分の姿勢と構えを見るためにある。きちんとした姿勢。武術において尤も基礎になるものである。そして構え。それぞれ武術によって違いはあれど、どれにも存在する物。どちらもきちんと出来ていなければそれ以上の成長は無い物。其れを性格に出来ているのか確認為るため鏡の前で木刀を振う。所謂素振りと言われるものである。其れを千本丁寧に姿勢と構えを崩さずに行う。


 其れが終了したら今度は鏡の前を離れ、道場の真ん中に陣取る。構えは中段。そこから真っ直ぐ突きを放つ。そのまま構えを直さず続いて待つ突く。今度は後ろ足バネにして跳躍。『バンっ!』という床の鳴る音が道場に響く。すぐに足を捌き、中段の構えに戻す。今後は左手を離し、顔の真横で構える。そして突く。そして腕を回して、袈裟切り。そしてまた中段の構えに戻る。


 彼が行っているのは彼が身につけている剣術の型。それを忠実に。丁寧に確認している。これが旭野光芽の毎朝の日課である。


「・・・・ふぅ」


 型の稽古を終えた彼の体からは尋常じゃないほどの汗が出てくる。其れを腕の光で軽く拭うが、そんな行為に意味が無いことは分かっている。だからこそタオルを取ろうとしたその瞬間。世界が回った。いや、正確には世界は回ってなどいなく、彼の体が異常を来していた。その証拠に頭に訳の分からない単語や見たことのないはずの情景が飛び交っているのだから。いきなりのことで混乱したコウガは思わずその場に倒れ込み、どうにかタオルを手にとって其れで顔を覆う。今彼は視覚や聴覚。嗅覚の三つの感覚が狂っているのか感じる物全てに対して気持ちが悪くなっていく。その内味覚もおかしいのか、ただ自分が吐いた息でさえ気分が悪くなる元凶でしかなくなった。


「ぐっ! あっあっあっあっ! ・・・・・くぉぁぁぃぎぃ!!」

 自分でもよく分からない呼吸法になっている。それでも気分は良くなるどころか悪くなる一方。頭の中に入り込んでくる全ての情報が彼を苦しめた。これがなんなのか。混乱していて分からない。だが時間が経つにつれてその情報が馴染んでくる感覚にもなっている。其れが余計に気分が悪くなる原因でもあった。尋常なじゃない汗の量。こみ上げてくる吐き気。目が回り、変な情報が頭の中に入ってくる感覚。筋肉の痛み関節の痛み。まるで高熱でうなされている時の物である。ここで光芽はようやく自分が熱風邪だったのではと疑った。朝起きたときは別に不調ではなかった。体温も適温だったはずだ。だったら何かがこの熱をもたらしている。


「な・・・・・・・なんだ・・・よ!」


 思わず叫んでしまう。この苦しさが光芽にこの様な事をさせた。・・・・・だが結果的に其れが良かったのかも知れない。何故ならここで叫んだことで彼は思い出したのだから。この頭の中に入ってきた情報がなんなのかを。


「・・・・・・・おいおいおい!」


 だがそれがなんなのか理解したところで光芽の混乱が収まることはなかった。しかし不思議と先程まで苦しめていた物が少しずつだが収まってくる。其れと同時に徐々にその情報が自然に馴染んでいくのを感じれた。そのタイミングで仰向けになって目を開き、天井を見つめる。


「・・・・・おれは。・・・・・・あさひの・・・・・こうが・・」


 呆然と確認為るように自分の名前を呟く。


「・・・・あさひのみつばの実兄。だったよな・・・・・」


 まるで他人事のように呟く。妹である旭野光葉。その名前に彼は覚えがあった。


「おいおいおいおい! 何で俺はここに居るんだよ。・・・・っていうか。転生したって事なのか? ・・・えっ! 俺は死んだのか?」


 あまりに突然の事で混乱する。だがそれでも理解したことがある。先程頭の仲に入ってきた情報や記憶。それは前世の事。それを思い出したのだと。そして自分は前世で好きだったライトノベル。『悠久なる星剣』の世界に入ってきたこと。そして転生先がこの作品のメインヒロイン。旭野光葉の兄として転生したのだと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る