もやもやも、温もりも。創作の森で出会う“私”
- ★★★ Excellent!!!
『心情記憶の森』は、まるで静かな森の奥深くを一歩ずつ歩いていくような、不思議な安らぎに包まれる読書体験でした。ネット小説投稿者としての葛藤や孤独、なかなか評価されないもどかしさ――それでも日々の暮らしの中に息づく温もりや、小さな幸せを見つめるまなざしが、淡く優しい光となって心に沁みてきます。
ジャンル分けやランキングという“偶然”と“必然”の間で揺れ動く創作者の姿は、多くの書き手にとって他人事ではなく、私自身も思わず自分を重ねてしまいました。家族と囲む食卓、季節ごとの行事、子ども時代の懐かしい記憶――そうした一つひとつの情景が鮮やかに蘇り、読み進めるごとに記憶の森がそっと心を包んでくれるのです。
杏の木やグレープフルーツ、アゲハの幼虫たちとのささやかな出会いを通して、生命の神秘や切なさ、そして再生への希望までもが静かに語られていくのが印象的でした。