第一部 10話 シルがいない!
「よし! よくやった!」
戻って来た俺たちを迎えてギルド長は言った。
騎士団に大半を押し付けた結果、街は無事だった。
今は冒険者ギルドへと戻って来ている。時間は夕方になってしまったが。
遠目で見た限り、騎士団も大事はないようだ。
結果だけ見れば大成功である。
「特別報酬を渡すから後で受付まで来るように!」
ギルド長は両手を腰に当ててふんぞり返った。
冒険者たちがわっと沸く。
「……金払いは悪くないんだな」
「だから受付嬢もやる羽目になるんだろ」
カイの言葉に思わず返す。
それにしても、良く対応できたもんだなぁ……その点だけは感心する。
「おい、ギルド長!? ギルド長はどこだ!?」
「レイ隊長! そんなに大声出しては駄目ですって……」
ふと、そんな声が聞こえてきた。
さらに、ばーん、と冒険者ギルドの扉が開け放たれる。
そこには金髪碧眼の女性とその腰にひっついた小さな女の子がいた。
女性の方は長身で青を基調とした騎士団の制服を着ていた。
女の子はその半分ほどの身長しかない。
長いローブを引きずるように、自分の背と同じくらいの杖を突いていた。
「マジか……」
困ったことに、どちらも俺たちの顔見知りだった。
俺たちは視線を逸らす。
「おい、出てこいギルド長……あ、クラウド!」
長身の女性はレイ。
騎士団の所属で細剣の使い手だった。
「そんな喧嘩腰じゃ……足元を見られますよ?」
小柄な女の子はエミル。
知り合いの魔法使いの弟子だ。
レイはギルド長へと歩み寄った。
後ろをエミルがちょこちょこと付いて歩く。
「……どのようなご用件ですか?」
ギルド長が言った。受付嬢になるな。
「要件もクソもあるか!? 何だ、あの魔物の群れ!」
やっぱりそうか。レイ隊長って呼ばれていた。
あの詰所の責任者はレイなのだ。
「突然、現れて大変だったんですよ。いやぁ、救援に感謝しますよ」
ギルド長がしれっとした様子で言った。
「救援じゃないだろっ! 白旗を掲げた襲撃だぞ、あれは!」
全くその通りだ。魔物を用いた波状攻撃である。
「いやいや、救援依頼の書状が届いたでしょう?」
「書状? 確かに届いたが……」
「彼らはあの書状を届ける依頼があったのです」
「な……」
レイがあんぐりと口を開く。
嘘だろ、あの所業を救援要請で済ませる気か。
「ふざけるな! そもそも四通も送り付ける奴があるか!」
「手違いで……」
なるほど、狡い。
一通りの口論を終わらせると、レイとエミルはギルドを出て行った。
ほとんどギルド長に言いくるめられていた。
「……どうする? 挨拶くらいはしていくか?」
「やめとけ。下手に目立つ必要はないだろ」
「でも……」
「こんな落ちぶれた姿を見せたいか?」
「……いや」
レイもエミルも魔王軍と一緒に戦った仲だ。二人とも凄腕。
指揮を執ったのはレイで、魔法で魔物を殲滅したのはエミルだろう。
幸い、二人とも俺たちに気づいた様子はなかった。
確かに目立つ必要はないか。気を使わせたくもない。
「あの、私はちょっと二人と……」
「どうしよう!?」
ニコが何かを言おうとした瞬間、アリアが走り寄って来た。
何やら慌てた様子だった。
「どうした?」
「もう簡単なことで驚いたりは……」
俺とカイがやれやれと余裕の表情を浮かべる。
やっと一段落した所なんだ。これ以上の面倒事は勘弁してほしい。
「シルがいない! さっき一人で依頼を受けて行ったって!」
アリアが困り切った様子で言う。
「勝手に街を出て行ったのか!?」
「もう使い切ったのかよ!?」
俺とカイがそれぞれの観点から叫んだ。
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