43話 弁論
生徒指導部室に着くと、生徒指導部に所属する先生たちとホラー部員が待っていた。先生たちは、事を見守りながらも、各々の仕事をしていた。ホラー部員はぎゅうぎゅうに狭い机に収まるよう、椅子に座っていた。
「なんでここに?」
私は部員たちに聞いた。
「刑事ドラマとかでもあるだろ?知人に事情聴取する場面が」
浜田先生は部員の代わりにそう言って、私たちに座るよう促した。なるほど、ということは、私の問題で部員を呼び出してしまったってことか。申し訳ない。それに、きっと担任の先生だって受け持ってた授業があるだろうし、浜田先生だっておそらくそうだ。だとしたら、授業を潰してしまったことになる。罪悪感。その言葉が脳をよぎる。一方、奴は一体何を…
もう座ってくつろいでやがる!!
奴にとってこの場所はお世話になりすぎて、第二の家みたいなものなのだろうか。
「ほら、君も座りなさいよ」
気がつくと私以外のメンツは全員座っており、担任に座るよう言われてしまった。私は黙って着席した。
「じゃあ、早速、事の経緯をざっと説明すると…」
浜田先生は今までのことをおさらいした。
「これでいいのか?」
「ああ、はい。おっしゃる通りです」
担任は言った。私たちも実際あったことと浜田先生の説明に特に差異はなかったため、頷いた。
「あのー、一個いいですか?」
辻は軽く手を上げて、意見を言いたそうにしていた。浜田先生は承諾した。
「私の方はあまり気にしてないですし、波さんも一発殴ったことで腹の虫が治ったと思うし、きっと彼もカッとなってしまっただけで、今では反省してると思うので、その、情状酌量と言いますか、なるべく穏便に済ませてもらえないでしょうか」
辻の発言に対し、他のホラー部員もうんうんと頷いていた。私には辻が弁護人に見える。
「まあ、辻がそう言うなら、僕はその流れに身を任せたいと思いますが…。浜田先生はどうですか?」
担任は浜田先生に探りを入れるように聞いた。ほとんどの人間はその返答が気になるあまり、心臓バクバクだったと思う。
「まあ、本来、こういった暴力行為がみられた場合、停学処分、ひどいと退学処分になりえる事案にはなるんだよな」
た、退学!?停学は少し覚悟していたが、退学!?そりゃあ、ないぜ!
「まあ、でも今回君の方はこういった問題は初めてだろうし、停学・退学処分はないから安心しなさい」
「よかったあ」
思わず、安堵の声が口から漏れる。しかし、油断は大敵だ。私はもう一度背筋を伸ばす。
「だが、問題はお前だ。さっきからやけに黙っているが、話に参加しなさい」
浜田先生は奴に言う。奴は机に肘をつき、横柄な姿勢をとっていた。
「今日から今までなんとか指導してきたが、これ以上問題が続くなら退学処分も視野に入れなければならなくなるぞ。それでもいいのか?」
浜田先生は奴に問いかけた。なんとなくだが、浜田先生は奴を退学処分にしたくないのだろうと私は思った。きっと、指導するほど生徒としての愛情が芽生えるのだろう。
「お母さんも、きっとそれを望んで…」
「その話はするんじゃねえ」
浜田先生は続きを話すことなく口を閉ざした。
「俺は別に退学でも構わねえぞ。なんなら、逮捕でもなんでもしやがれ」
奴は言い放った。困った。示談で持っていく流れだったが、奴が折れない限りそれは無理そうだ。
事の原因を作ったのは奴だから、私は8割奴が悪いと思っているのだが、残りの2割はそれをうまく対処できなかった己の責任でもある。よって、私はプライドを捨てて謝った。もしかしたら、私に殴られたのが癪だったのかもしれないし。
「ごめん、須賀。私が悪かった。暴力で解決しようとしちゃった。2度としないよ。だから、そんな身を捨てるようなこと言わないでよ、ね?」
手を合わせて、私は奴、いや、須賀に謝った。須賀はまた黙った。気持ちを変える気はなさそうだった。
「俺も悪かったよ」
辻も続けて謝った。
「私も無理やり追い出しちゃってごめん」
「俺は…何もしてないけど、部員の連帯責任として謝るよ」
まだ気持ちは変わらないみたいだ。どうすればいいのだろうか。そこで、辻はもう一つ言った。
「じゃあ、これでどう?部室の件も、俺たちが使わない日は君が使えるよう先生に頼んでみるからsa」
「ほんとか?」
須賀は間髪入れず口を開けた。それに対して、一斉に皆が須賀に集中した。他の生徒指導担当の先生もね。
「うん、尽力を出すよ」
「わかった」
すんなりと、須賀は返事をした。全員ほっと一息をついた。そんなにあの倉庫が大事だったのか。最初っからそう言ってくれればよかったのに。
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