41話 拳
「おい。無視すんなよ」
奴を放っておくことを耐えかねて、私たちは嫌々、奴の顔を見た。
「何?」
「何じゃねえよ。昨日はよくもやってくれたな」
「仕方ないでしょ。私たちの部室が直るまで、暫くはそこ使わせてもらうからね」
私は奴に宣言した。奴はそれを聞くと、より顔を顰めた。
「は?何勝手に決めてんだよ」
「俺たちはちゃんと学校を通して、許可を得たよ。誰かさんは勝手に使ってたみたいだけどね。もし嫌なら、君も申請したらいいんじゃない?何かしら、ちゃんとした理由があって、そこを使いたいなら、僕らも引き下がるよ」
辻も応戦する。奴はぐっと苦しい顔をした。その顔は「そんなちゃんとした理由はない」って顔だな。しめしめ。
「じゃあ、そういうことで」
辻はしてやったという顔で、問題集に目線を落とした。私も勝った気でその問題集を解いてる様子を眺め始めた。奴はどんな顔をしているのか興味があったが、また難癖をつけられそうなため、やめておいた。
すると、奴はそこでは引き下がらず、辻がペンを持っていない方の手で押さえていた問題集を無理やり奪った。書いている途中だったため、シャーペンが紙と机の上を走り、それは弧を描いた。
「ちょっ…」
私は「返しなよ」と奴に言おうとした瞬間、奴は勢いよくそれを破き、紙がパラパラと床に散っていった。辻は呆然としていた。奴は、さっき私たちが奴を言い負かした後の顔をしていた。私はその顔を見て、カッとなり、思わず奴に掴みかかった。そして、そのまま拳を振り上げ、一発グーパンチをお見舞いした。奴はその衝撃でそのまま床に尻餅をついた。今度は奴が私の行動に呆然としていた。まさか殴られるとは思わなかったのだろう。殴った手がじーんと熱くなっている。そして、鈍い痛みが襲う。いてえ。人なんか殴ったことないし、殴り方も教わったことないから、初めて感じる痛みだった。これ、殴る側も痛いんだな。
教室にいた生徒も私たちの喧騒を見て、息を呑んでいた。しかし、そんな静まり返った教室に、場違いな声が響き渡った。担任の登場だった。
「今日もおはよう!!さあ、みんな席につきなさ…」
担任はそれを言い終わる前に、私と目が合った。そして、教室の惨事を確認した。
「何事だ!?」
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