37話 隣の問題児
奴(須賀)は机に肘を突き、うたた寝をしていた。この席でそれをするとは中々いい度胸である。
「はい、それじゃあ、これから暫くお世話になる隣の人にご挨拶しましょうねー」
山野先生は全体にそう言うと、周りは平和そうに挨拶を交わし出した。私もなんとなく挨拶しないのは憚られたため、意を決して隣を向いた。どことなく、周りが私たちの様子を伺ってるように感じたのだが、気のせいだと思いたい。
私は奴の机をトントンと叩くと、奴は注意を向けた。私はそこですかさず言った。
「よろしくね」
初対面はまあまあそれなりに好印象を持たれがちな私だが、我ながら本領発揮できた声色だったと思u…
「なんだてめえ」
そう言って、奴はそっぽを向いてまた夢の世界へと旅立っていった。周りはあちゃーと言わんばかりの顔だった。私は奴が悪夢を見るよう、切に願った。
「いやあ、朝から散々ですな。同情するよ」
「じゃあ、私と席変わってくれる?」
「断る」
南は朝ごはんの惣菜パンを口にしながら断固拒否の意思を示していた。はあと私はため息をついた。
「先が思いやられるな」
もっくんも惣菜パンを口にしながら言った。今回、南ともっくんは隣の席であった。あの一件以降、もっくんは特別一役買っていた南を慕っており、謎の上下関係が生まれていた。南も満更ではなさそうだった。
「あいつはなかなかだぞ」
「もっくんでさえ?」
「おう」
人当たりが良い陽キャのもっくんでさえ手に負えないとは相当の人物だ。これからのペアワークどうしよう。
「ねえ、なんか呼ばれてるけど」
南にそう言われ、呼ばれた方へ振り返ると、クラスの男子数人が私を手招きしており、そちらに向かった。
「どうかした?」
「はい。これ」
1人が私にとあるものを手渡した。小さなメモ帳だった。とりあえず見てみろとのことだったので、私は中身をパラパラとめくったが、いまいち理解が追いつかなかった。
「なんだこれ」
「須賀の一挙一動に対応できるマニュアル。誰かが作って以来、それが今日まで受け継がれてる。で、毎回、隣の席になった人に渡される伝統ってわけ」
「へー」
なんだその継承。まあ、要するに奴のトリセツってことか。よくよくメモを見ると、そこには、先人たちの知恵が色々記録されていた。よく分析したな。ここまでするとはよっぽどのお人よしか、もはや好きかの2択だと思う。
「とりま、それ見たらどうにかなるから」
「なるほど。ありがとう」
「頑張れよ」
ファイトをもらった私はメモ帳を大切にポケットにしまった。
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