32話 試合準備

「よお」

「よっ」

 2人して片手をあげて、挨拶を交わすと、黒崎くんは手に持っていたドリンクを勢いよく飲んだ。飲料メーカーの爽やかなCMみたいだ。今冬だけど。

「見てるの気づいてたんだね」

「スポーツやってる人間は視野が広いんだよ」

 そう言って、黒崎くんはドヤってきたため、私は適当に流した。

「そういえば、仲直りできた?」

「これからする予定」

 私はこの後の予定を話した。

「なるほどね。結果待ってるわ」

「うん。そういえば、黒崎くんは悩み事ないの?私ばっかり相談に乗ってもらってなんか申し訳ないよ」

「俺?うーん」

 黒崎くんは無意味にボトルを持つ手をいちいち変えながら考えた。

「なんもないかも」

「まじで?お気楽な人生でいいですねぇ」

 私は皮肉った。黒崎くんは満面の笑みでボトルを掲げた。すまん。私が悪かった。

 私が白旗をあげると、黒崎くんは調子を戻し言った。

「まあ強いて言うなら、悩み事がないのが悩みだな」

「わかるようでわからない」

「俺も自分で言っててよくわかってない」

「なんでだよ。まあ、でも今はそれでいいんじゃない?特に考えなくても」

「そうだね」

 黒崎くんが少し納得したように、私は少し思えた。

 サッカー部の選手たちは、休憩が終わったのか続々と集まっていた。黒崎くんはそれを見て、残りのスポーツドリンクを飲み干した。

「じゃあ、俺そろそろ戻るわ。頑張れよ」

「うん。ありがとう。そっちも部活頑張れ」

 私と別れると、黒崎くんは集まりに合流した。また試合に出るのか、ウォーミングアップをしていた。私もそれを真似て、体を動かすわけでもないのに、ウォーミングアップをした。私もこれから始まるに備えたのだった。

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