25話 菓子パン

「ど、どういうこと?」

 私が問いかけても2人は黙ったままだった。

気分は晴れないまま、やがて、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。それが契機となり、3人は別々に部室を出て行った。


 時間はお昼ご飯タイムだった。教室に戻っても、意外と人目は気にならなかった。教室を勝手に出て行ったため、注目されてしまうかもしれないと思ったが、自意識過剰だったようだ。

 私はとりあえず席に座った。にしても、困った。お昼ご飯を食べる相手がいない。南は放送室に行ってしまったし、他の2人に関しては、この状況で飯が誘えるほど、私は能天気ではない。てか、そもそもあの2人は教室にいないけど、どこで飯食ってんだ。

 あと、今ふと思ったが、思わず教室抜け出したけど、大丈夫か?しかも、よりによって英語の授業で。テストの点、授業態度も悪いんじゃ、いよいよやばいよな…。

「苦い表情してるな」

 私は色々な心配事を脳内で反芻しているところを急に話しかけられた。誰だと思い振り返ると、そこには黒崎くんがいた。

「どうも」

 とりあえず、私は挨拶すると、黒崎くんは手に持っていた菓子パン2つの内1つを私の机に置いた。

「食う?」

 これは彼による私に対する思いやりだと感じ、私はそれを素直に受け取った。

「ありがとう」

「いえいえ。で、何があったの?」

「へ?」

「明らかに何かあったでしょ。クラスの皆を騙せても、俺にはお見通しだよ」

 そう言って、黒崎くんは菓子パンの袋を豪快に開けて、パンを齧った。私もありがたく頂いた。

「そうかー。あ、ごめん、話遮って悪いんだけど、うちらが出て行った後の教室の雰囲気ってどんな感じだったの?」

「あー。クラスが騒ぎ出しそうな瞬間に、南さんが『あの2人は前日からお通じの状態が良くなくて、急いで大しに行きました』って説明してたから場はうまいこと収まったよ。よかったね」

「え、じゃあ、私たちうんこしに行ったことになってんの?しかも、それを皆に報告されたってこと?」

「そういうことだね」

 私は項垂れた。恥ずかしいったらありゃしない。しかし、南なりのサポートだ。ここはひとまず感謝だ。てか、どうりで、スルーされたわけだ。年頃の女子の便通事情なんて突っ込みにくいもんな。

「で、何があったの?まあ、ほぼわかってるようなもんだけど」

 そう言って、黒崎は私の話を求めた。

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