22話 確信

「そんなことがあったんだー」

 部室に向かう最中、私はこれまでの経緯を山野先生に説明した。

「はい」

「部室以外に来そうなところは?」

「わかりません」

 私は辻と友達なのに、彼のことを何も知らなかった。私は彼にどこか異変があったか振り返ったが、そんな素振りは見られなかった気がする。なんで、こんなことになっちゃったんだろう。

「そういえば、米屋はいない?おそらく、一緒に話してて、その後出て行っちゃったんだよね?何か揉めたのかな?」

 先生は推察した。

「そうだと思います。だけど、おそらく米屋は動揺して来れないだろうし、南は冷静だから突発的なことはしない。そうなると、私しか行けないって無意識的に考えたからか、今こんなことになってるんだと思います」

 山野先生は頷いた。

「まあ、君の判断は正しかったと思うよ。致し方ないことだよ」

 山野先生はそう言った。きっと先生という立場だったら、ここは大人に任せて、授業に戻れと言っているはずだ。でも、そうしないのは、山野先生は今、おそらく私を生徒としてではなく、1人の人間として私と向き合ってくれているからだと私は思った。まあ、サボりたかったというのもあながち間違いではないだろうが。

「さて、着いたよ」

 気づいたら、もう目的地だった。私はドアを開けた。鍵は閉まっておらず、室内に辻はいた。彼は机に腰掛け、部室の壁に立てかけてある鏡を見つめていた。私が来たことに気づいているだろうが、こちらを見なかった。私は山野先生にお礼を言い、辻と2人きりで話すために扉を閉めた。


「辻」

 私は名前を呼んだ。彼はゆっくりとこちらを向いた。儚げな表情で私は胸が締め付けられた。

「何してたの?」

 私が聞くと、彼は答えた。

「自分の姿を再確認してた」

「どうして?」

「必要だから」

 彼はズボンの裾をぎゅっと掴んだ。シワになると思い、私は彼の手を掴んで、それをやめさせた。すると、彼は素直にそれをやめた。

「もっと見つけるの難しいと思った」

 私は言った。

「どこ行くか迷ったけど、結局行くところがここしかなかった」

 そう言って、彼は苦笑いした。切ない表情だった。

「何かあった?」

 私は聞いた。

「うーん。簡潔に言うと、友情は成立しないって確信してしまった」

 そう言う辻に私は混乱したが、表にそれは出さなかった。

「どうしてそう思ったの?」

 辻は意を決したように言った。

「好きな人ができたから」

 彼が言ったことに私は動揺した。しかし、それを隠して、私は勇気を振り絞って聞いた。

「…誰か聞いてもいい?」

「おう」

「誰?」

 私はドキドキしながら、辻が答えるのを待った。

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