20話 英語の授業
私は昨日わかったことを教室内で報告すると、南はなんとか声を捻り出して言った。
「ぐろざぎぐんはしっぱいだったのねー」
カラオケの翌日、南の声はカスカスだった。
「声やば」
辻はそう言い、のど飴を南に渡した。そして、なんと私と米屋にも飴をくれた。相変わらず、気が利く奴である。にしても、こんな状態で放送ができるのか私は疑問だったが、大丈夫なことを祈ろう。
私たちは早速、封を開けて飴を口に放り込んだ。
「ぶどう味だ」
「ほんとだ。美味しいー」
私たちは暫く飴の味を堪能した後、授業が始まった。最も苦手な英語の授業である。今日は、長文問題をひたすら解き、答え合わせするという地獄の時間だった。さらには、生徒を当て、答えを黒板に書きに行かないといけない。鬼畜の所業である。
「このsheって誰だよ」
「Maryじゃない?」
「え。Nanaじゃないの?」
唯一助かったのは、近くの座席にいる人に質問してもいいことだった。私は真央ちゃんと黒崎くんと協力し合っていたのだが、私は明らかに読むスピードが遅いため、果たして協力できているのかはわからない。ちなみに私が読んでいる段階では、まだMaryもNana登場していない。
「あと5分ー」
先生が声を上げると、生徒たちはざわざわし始めた。私の同志は沢山いるようだ。
しかし、私はもう諦めて、ホラー部の部員に目を向けた。米屋はまだ解いているが、余裕が見える。南はおそらく見直しに入っていた。流石である。辻に至っては、机に突っ伏して寝ていた。優秀すぎて何も言えない。
「はーい。終了。じゃあ、これから答えを聞いていくぞー」
ほとんどの生徒たちは、一斉に下を向き、先生と目を合わせないようにしていた。当てられないための策である。逆に、そうしない生徒たちは自信があったり、当たっても大丈夫な強メンタルな奴らである。ちなみに辻はそのうちの1人である。
「じゃあ。米屋!問1、黒板に書きに来てくれるか?」
米屋の奴、当たってやんのー。私は笑いを堪えながら、彼の様子を見ていた。彼は一瞬当てられて、嫌な顔をしたが、すぐ立ち上がり黒板に向かっていた。そして、スラスラと英文を書いていき、やがてチョークを置いた。
先生は米屋が書いた英文をチェックして、言った。
「エクセレント!」
頂きました、エクセレント。やるなあ。英語は苦手じゃないことは知っていたが、割とできるんだな。
米屋はほっとした表情を浮かべ、自席に戻った。そして、辻とハイタッチをしていた。
「米屋すげえ。俺全然間違ってたわ」
黒崎くんはそう言って、自分の解答用紙に大きく×をつけた。真央ちゃんも△をつけていた。私もそもそも書いていないため、×である。
「じゃあ、次は君!」
そして、私は先生に指をさされた。終わったー。問2ってなんだ。選択問題か。
「ねえねえ、何になった?」
私は2人に助けを求めた。
「俺は1」
「私は…2」
「どっちを信じるべき?」
2人とも俯いてしまった。どっちも自信ないのか。
「ほらー。番号書くだけなんだから、早くしなさい」
先生は急かした。困ったな。こうなったら、勘に頼るしかないか。
私は意を決して立ち上がった瞬間、もう1人、誰かが立ち上がった音がした。
「辻ー?どうかしたか?」
先生がそう言うと、辻は暫く立ち尽くした後、教室から出て行ってしまった。様子が変だ。
「お、おい!」
私は先生の呼び止めを無視して、辻を追いかけた。
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