16話 黒崎くんと消しゴム
「黒崎隆也」
サッカー部所属。サッカー部に所属してるぐらいだから、運動神経は良い方なのだろう。成績は中の中と言ったところだろうか。以前、席替えで隣の席になった際、少し話したことがある。現在、私の前の席である。
「知ってる情報はそのくらい?」
「うん。だって、あんま関わったことないし」
私たちは、いつもの如く、部室で計画の話をしていた。
「今は話すときどんな感じ?」
南が聞いた。
「プリントが前から回ってきた時にお礼を言うくらいで、それ以外は特に」
「まじでただのクラスメイトって立ち位置だな」
米屋が言うと、私は頷いた。隣の席の時もペアワークや挨拶はしたが、大して話した記憶はない。
「趣味とかは?」
辻が聞くと、私は首を横に振った。
「それは知っておいた方がいいかもね。趣味の話となれば、それなりに会話が弾むだろうし。作戦はそれからだ」
私たちは頷いた。
「ここだと、同性同士、俺か辻くんが話しかけやすいとは思う。聞けそうな時聞いておくよ。波も南もタイミングが合えば聞いておいてほしい。波の場合、話が弾むようだったら、さらに深掘りして仲を深めておこう。あとは挨拶はなるべく毎日しよう。あんま話してこなかったから、不思議がられる可能性もあるが、印象を残しておくことは大事だし」
米屋の言うことに私たちは了解した。なんとか上手く聞き出せると良いのだが。
次の登校日、いつもは教室の後ろから入るのだが、今日から黒崎くんに挨拶するべく、前から入った。私はすぐに教室を一瞥した。ターゲット発見。自席で、何か書いている。周りに人もいない。今がチャーンス!私はやや小走りに向かった。
「おはよう」
やや声が裏返ったが、滑舌に問題はなかったはず。さて、どうだ!
「あぁ、おはよ」
黒崎くんは顔を上げ、挨拶を返した。そして、すぐまた何かを書き始めた。うん。特に変わった様子はなし。割とナチュラルに挨拶できたのではないか?出だしナイスである。ミッションクリア。
私は座席につき、バックの中に入っている教科書やノートやらを色々出していた。すると、前で黒崎くんが何やら探し物をしているのが見えた。もしや、消しゴムを探しているのか?さっき、なんか書いてたし。そう思い、私はさりげなく話しかけてみた。
「何か探してる?」
黒崎くんは私の方を振り向くと、消しゴムがなくてさと言いながら、ペンケースの中を探っていた。なんと。想像通り。
「よかったら、貸そうか?」
「え、いいの?」
「うん」
「ありがとう」
よし。ここで、良い奴っていうのをアピールしたい!私は勢いよくペンケースから消しゴムを取り出した。しかし。
そうだった!これ「ときドリ」記念グッズじゃん!
それには、消しゴムカバーに神崎の顔が大きくプリントされていた。そして、これまでの神台詞が羅列していて、何とも個性的デザインだった。これを貸すっていうのか!オタク全開で引かれるだろ!しかし、もうテーブルに置いてしまっていて、ブツは見られている。改めて仕舞って、普通の消しゴムを探すのも変だ。私は諦めて、これをどうぞと精一杯の笑顔で渡した。ああ、終わった。絶対、引かれるに決まっている。
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