11話 解
「君には関係ないじゃん」
ボブがそう言うと、辻は頷いていた。
「確かに俺はほとんど学校に来ないから、そういった事情はさっぱりわからない。だが、人のことを閉じ込めておいて、罪を逃れようとするお前たちの醜い姿には嫌気がさすよ」
辻はカメラを操作し始めて、終わるとそれを掲げた。
「再生します」
辻は再生ボタンをゆっくり押した。ビデオには、実験準備室の様子が写されていた。少し経つと、ドアが開いた。私と、後ろには見にくいがトリオがいた。そして、3人は私の背中を思いっきり押して…。そう。この事件の一部始終がそこには映し出されていた。トリオたちの顔色はみるみる青ざめていった。先生たちもさっきまでどうしたらいいものか悩んでいた様子だったが、これを見て、もう決心がついたようだった。
「皆さん。言うまでもないですね。これは」
校長先生がそう言うと、他の先生方は何も言わなかった。異論なしということである。そして、私たちのクラスの副担任、山野先生は言った。
「君たちはもう帰っていいよ。あとは、そこの3人と先生たちで話し合うからさ。気になるようだったら、後日談として私か担任の先生に報告してもらうってことでいいかな?」
私たちは頷いた。
「じゃあ、そういうことで」
山野先生はそう言うと、私たちに後は任せてと言いたげにグッドポーズをした。こんなに頼りがいのある山野先生は初めてである。山野先生もいざという時はちゃんと先生なのだと私は思った。
私たちは放送室を後にし、教室内で帰り支度をしながら、談笑していた。
「辻くん、かっこよすぎだろ!」
米屋は興奮状態で言った。辻は困った様子で、どうもとお礼を言っていた。
「米屋。辻くん、困ってるから。でも、確かにあれはスカッとしたよね」
南も感嘆していた。
「にしても、あいつら絶対焦ったよな。真央じゃないのかって」
もっくんは言った。確かに。まさか、私が真央ちゃんを偽っていたとは思いもしなかっただろう。それに、おそらく私が偽らなかったら、この事件は起きていなかった。私は友人たちに迷惑をかけてしまった。しかし、私は後悔していない。これはやるべきことだったと思っている。
さて、そろそろ帰るかと言い出していたところ、教室のドアが開いた。一斉に振り向くと、そこには真央ちゃんがいた。彼女は息を切らしながら、真っ直ぐこちらへ向かってきた。
「真央!」
もっくんは急いで駆け寄った。
「ど、どうしたんだよ。急に」
もっくんは動揺しながら問うと、真央ちゃんはすぐさまスマホを取り出した。そこには、もっくんと通話中の画面になっていた。
「なんだこれ」
もっくんはそう言って、携帯を取り出し確認すると、彼の画面も彼女と同じものになっていた。
「もっくんが私にずっと電話してくれてたでしょ。私が思い切って出たら、ずっとガサガサ音が鳴ってるだけで、何かと思ったら会話が聞こえてきて…」
「そうだったのか」
「じゃあ、真央ちゃんはこの一部始終を…」
南はそう言うと、真央ちゃんは頷いた。
「うん。ずっと聞こえてた。ごめん。いない間、迷惑かけちゃって。すぐ行こうとも思ったんだけど…」
「けど?」
南は聞き返した。
「怖かったの」
真央ちゃんは俯いて、体を震わせた。
「私、前にあのマネージャー3人ともっくんが争ってるのを偶然聞いちゃったの。そしたら、もっくんは部活を辞めるとか言うし、元カノの子はすごく怒ってるし。私がいなかったら、今頃円満だったのかなとか色々考えちゃって怖くなったの。それで、気づいたら学校を休んで、風邪だって嘘ついて心配させて。それに、もっくんは部活に専念した方がいいんだって勝手に思って、別れたくないけど、別れようって言ったり。で、つけが回ってこんなことになったのに、怖気付いて、事が解決した今のこのこ来て。本当にごめんなさい」
真央ちゃんは声を詰まらせながら、泣いて謝った。もっくんはそんな彼女を抱きしめた。
「ごめん。悩みに気づかなかった俺が悪いんだ。俺が元々部活での問題を引き起こしたからこんなことになったんだ。それに、それを真央に言わずに、自分で解決しようとしたこともいけなかった。悪かった」
もっくんは真央ちゃんから離れて、私たちの方を向いた。
「本当に悪かった」
そう言って、深々とお辞儀した。真央ちゃんももっくんに続いた。
「大丈夫大丈夫。俺たち別に怒ってないし。それに俺と南と波は言ったろ?仲直りできるように協力するって」
米屋がそう言うと、私と南はうんうんと頷いた。
「俺も別に気にしてない」
辻もそう言うと、もっくんと真央ちゃんはほっとした様子でお互いに笑い合っていた。
こうして、事件は集結したのだった。
「じゃあ、後は2人で仲良くやってくださいよ。私たちは先に行ってますので」
南は米屋に今教室を出る人の分の荷物を持たせて、素早く出るよう促した。米屋、明日筋肉痛確定だな。
カップル以外が教室を出ると、真央ちゃんは後ろから声をかけた。
「みんな、また明日ね!」
真央ちゃんは笑っていた。久々に聞けたまた明日という響きが嬉しく、それを噛み締めながら、私は学校を出た。
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