10話 悶着

「辻!?この人が!?」

 私は彼の顔をじーっと見た。彼は何のことやらさっぱりよくわからない様子だった。

「何で俺のこと知ってんの」

「うちとこの人(米屋)は君と同じクラスだよ」

 それを聞くと、彼は少し納得したようだった。

「とりあえず、無事でよかったよ」

 米屋はそう言うと、スマホで電話をし始めた。

「南ー。見つかったぞー」

『お、マジ!よかったー。放送で伝えるわ』

 南は電話越しに、すぐ放送を始めた。

『皆さん、お騒がせてしまいすいません。無事見つかったのでこの放送は終了です。また、手助けしてくださった方ありがとうございました。それでは』

 放送が終わると、彼女は電話で言った。『なんか、放送室前に先生何人かがいて、今回の出来事の説明について求められてるんだけど』

「そうか、わかった。放送室に向かうでいいか?」

『うん。待ってるね』

 米屋は電話を切って、私たちに言った。

「じゃあ、行くぞ。おい。お前ら覚悟しとけよ」

 米屋がそう言うと、彼女たちは私のことを悔しそうに睨みつけていた。


「ところで、もっくんは何してるの?」

 放送室に向かう途中、私は米屋に聞くと、米屋は思い出したように言った。

「ああ、放送室の番だよ。部外者が入ってこないように見張ってた」

「なるほどね」

 確かにもっくんのガタイの良さなら、敵なしだ。おそらく、米屋じゃ体格的に番をしても無意味だから、探す役割担当にされたのではないかと思ったが、あえてここでは言わないことにした。

 放送室内には入ったことがないため、向かう途中ドキドキしていた。実際着いて中に入ると、思った以上に先生たちがいて、一気に緊張感が走った。違う意味でドキドキした。そこには、うちのクラスの担任、副担任、トリオのクラスの担任、副担任、バスケ部顧問、放送委員会顧問の先生、校長と豪華メンツがいた。私たち全員はそれに圧倒されて、ぎこちなく放送室に入った。

「これで、全員揃ったのかな?」

 校長先生は聞いた。

「あ、はい。そうですね。えっと、たまたま辻くんも中にいたみたいで、一応来てもらいました」

 米屋は辿々しく答えた。

「なるほど。わかった。君たちが来る前に、そこの放送委員(南)と坂田(もっくん)からの説明をしてもらい、ある程度の状況は把握できた。これから、その要約をするから、もし訂正することがあれば教えてくれ」

 バスケ部顧問がそう言うと、この出来事の発端を説明し出した。


 かつて、もっくんとトリオのボブは交際関係にあった。しかし、部内は恋愛禁止。部内のルールに従うことがお互いのためになると話し合い、2人は別れることになったと言う。もっくんは気持ちの整理がついていたらしいが、ボブはそうはいかなかった。そして、月日が経ち、もっくんには彼女ができた。そう、真央ちゃんである。そして、もっくんは真央ちゃんへの愛を募らせる。2人の時間を確保したいが、部活はハードだった。よって、2人の時間を大切にしたいが故に、もっくんは部活を辞めることを検討していた。しかし、もっくんはエース。それに対し、ボブ含むトリオは反対し、揉めた。それから、ボブは真央ちゃんを恨むようになる。よって、トリオで協力し、今回の事件に至った。


「「「誤解です!!」」」

 トリオは断言した。どういうことだ。

「してくださった説明はほとんど事実だし、閉じ込めてしまったことも事実です。だけど、そこに悪意はなかったんです!4人でふざけてただけなんです!」

 ボブは涙ぐんで言った。おいおい。悪意あっただろ、明らかに!こいつら、反省してねえ。

「ふざけんな!そんな言い訳通用するわけねえだろ!」

「ほんとだよ。素直に認めろよ」

 米屋ともっくんは抗議した。南は静かにそれを見守っていたが、顔は笑顔だった。やべえ。怒りの限界きちゃってるよ。

「そうなのかい?」

 校長は私と辻に聞いた。私は正直、事が丸く収まるのなら、このままトリオを不問にしてもいいと思っていた。しかし、ここまでしてくれた友達に対して、それは絶対してはいけないことだった。だから、私は異議の声をあげようとした。しかし、それを遮ったのは、辻だった。

「よく、言えるな。そんな戯言を。この状況で」

 辻はそう言って、トリオを嘲った。そして、手に握っていたカメラを、彼は強く握りしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る