この作品は、バイクを通じて描かれる人生と、何気ない日常への感謝が心に残る物語だと思います。
特に印象的だったのが、病と向き合いながらも、周囲に笑顔を見せ続ける職場の同僚との会話です。自分の置かれた状況を嘆くだけではなく、これまで生きてこられた時間や、出会った人々への感謝を語る姿には、静かな強さを感じました。
もうひとつ心に残ったのが、長年のバイク仲間たちとのツーリングです。昔と変わらず無邪気に走る友人たちの姿を楽しみながらも、年齢を重ねたからこそ感じる危うさや、無事に帰ることの大切さが丁寧に描かれています。
実際の経験や人物を下敷きにしながら、単なるバイク小説や思い出話ではなく、「生きていること」「誰かと同じ時間を過ごせること」が、決して当たり前ではないのだと伝わってきました。
わずか五話の中に、友情、家族、命、そして感謝という大きなテーマが自然に込められています。読み終えたあと、自分の周囲にいる人や、何気なく過ごしている毎日を大切にしたくなる、心に残る素晴らしい短編小説だと思います。
私自身、バイクに乗り続けて25年以上になります。
幸いにも友人をバイク事故で亡くした経験も、大きな怪我をしたこともありませんが、作中で描かれる「死」や「リスク」は、ライダーならば心のどこかで常に意識しているものであり、深く胸に刺さりました。
本作は、単なる楽しいツーリング小説ではありません。
末期癌で余命を悟りながらも「生きているだけで感謝」と語る同僚『彼』と、五体満足でありながら命を削るような走りに魅せられる『まっちゃん』や主人公たち。
この「生」への対照的な向き合い方が、降りたくても降りられないバイク乗りが抱えるある種の「業」のようなものを、鮮烈に浮き彫りにしていると感じました。
楽しいツーリングの描写は、その空気感に親近感を抱き、ワクワクする一方で、峠での危ういバトルにはヒリヒリと共に、普段の行いへの内省を突き付けられました。
そしてそれだけでは終わらず、あとがきで明かされる真実に言葉を失いました。
あの無邪気さも、無謀さも、すべてが愛おしく、そして切ない。
バイクが持つ、翼が生えたような自由という光の部分と、常にリスクが付きまとう影の部分。
その両方が、経験者ならではの筆致でリアルに描かれていたと思います。
そして、タイトルの通り、バイク乗りには きっと胸に残るものがある作品だと感じました。
お互いに、執筆という趣味、そしてバイクという素晴らしい(けれど少し厄介な)相棒との時間を楽しみましょう。
そして、怪我せず、誰かに怪我をさせず。無事に今日も、明日も帰宅しましょう!