カードゲーム喜怒哀楽

芝美山 高信

★1 カードゲーム喜怒哀楽

1枚目~始まりはうるさい~

シバラク「今日からまた学校か…」


4月中旬、若干憂鬱な気分で最寄り駅に向かうくせっ毛の男子高校生。芝 楽太郎(しば らくたろう)は、クリーニングから帰ってきたブレザーの少し柔らかな香りと窮屈さを感じながら、軽い通学バッグを「よっ」と背負いなおす。

歩いて10分足らずの道のりだが、やはり休み明けは足取りが重い。加えて先週のニュースのせいで、シバラクの気分は普段より低空飛行だった。


シバラク(まさか『シュートリア』の新作TCGがサ終とは…1年しか遊べてないんだけど…まぁここ最近は店舗大会も開店休業状態だったし…にしてももうちょい何とかなっただろうに…)


小学生からTCGが趣味だったシバラクは、1年ほど前に始まった新作TCG『シュートリア・ネオ』を最近はメインとして遊んでいた。もともと『シュートリア』はシバラクが初めて遊んだ、そしてハマったTCGで、世界的にも人気作だった。しかしインフレが進みマンネリ化したため、カード会社の株式を買った中国の親会社のテコ入れで、システムの一新を決定。待望の続編『ネオ』を発売したのだが…これが大爆死。

元々平和的なM&Aだったはずが、中国親会社の方針で役員が総入れ替えとなり、ほぼ乗っ取りに近い責任者交代劇が起こる。当然、『ネオ』への移行も急だった。そのため旧作のカード資産価値が急落、それまでの古参ファンの反感を大いに買ってしまった。

新システム自体は旧作のインフレを抑えて新要素を導入する目的で悪くはなかったのだが…カードを売りたい親会社側はいきなりインフレしそうな新カードをSCR(シークレットレア)枠でぶっこんで来た。それがまたデッキ構築に4積み必須なため、新作カードのパック価格が高騰。「金を持ってる奴だけ遊べ」と言わんばかりの対応に、新規ユーザは軒並み去っていった。


シバラク(その後、システム側の元々いたスタッフさんたちは禁止制限対応とか、頑張って正常化しようとしてたけど…カードデザイン側が乗っ取られて壊れカードバンバン作ってたからな…はぁ…)


シバラクも最初はSCRが手に張らず苦労して低課金デッキを作り遊んでいたし、最近は新弾のカードもかなり安く手に入ったため好きなデッキを組めていた。…が、今度は対戦相手がいないため、一人回しや、唯一続けていた沖縄在住のTCG仲間とリモートで対戦するばかりだった。


シバラク(にしても、どうすっかなぁ…他のTCGも新しく始めるにはお金がなぁ…スタートデッキと少しの改造で遊べるくらいならいいけど…。それに『シュートリア』仲間は『ネオ』になったときにみんなバラバラに他に行っちゃったし…沖縄の来島(くるしま)さんも受験専念でこの機に一回TCGやめるって言ってたし…)


そんな感じでとぼとぼと歩いているシバラクの肩が、ポンポンと叩かれる。うっそりと振り向くと、ほほにグニっと人差し指が突き刺さりシバラクの口が歪む。指をさしたツンツンヘアーの男は、カラカラと笑ってその様を見つつ、横に並んで歩き始めた


イカリ  「よぉ!しけた顔してんな!春休み昼夜逆転してたのか!?それともまたミチルちゃんと喧嘩したのか!?」

シバラク 「おはよう、イカリ。そして指をどけろ。前向いてんのにまだ指してくんな。」


今日も今日とてうるさい存在感を放つ男が、ぐりぐりしていた指を引っ込めて顔を覗き込んでくる。本名梶原 怒(かじわら つとむ)、小学校からの幼馴染である。ちなみにイカリは愛称だが、名前の漢字からきている。そそっかしい梶原家の両親が、1年経つまで「努」と「怒」の字を勘違いしていたせいでそのままになってしまったという、割と笑えない事件の被害者でもある。


イカリ  「おろ、マジで元気ないじゃん?どしたん?ほんとに喧嘩しとんのか?妹に謝るのは兄貴のプライドが…」

シバラク 「ちげぇよ、別に喧嘩してないわ。というかなぜ俺が謝る前提なんだ。」

イカリ  「だってミチルちゃんが怒る場合、大体シバラクが地雷踏んでんだもん。推し活破算娘はパワーワードすぎた(笑)」

シバラク 「あれはアイツが先に喧嘩売ったから…というか最近は喧嘩してないよ。さすがに受験前だったし気ぃ使ってたわ。合格してからは向こうが上機嫌だったしな。」

イカリ  「あぁ、改めて合格おめでとうな。って2か月前にも言ったか…。にしてもミチルちゃん頭良いんだなぁ。それに比べて…」

シバラク 「黙れ。お前の学年末の英語を…」

イカリ  「ごめんなさい、あれはダメ、ノータッチで。」

シバラク 「私の姉は写真をゆっくりフルーツに…」

イカリ  「のぉのぉのぉ!」


学年末テストの英訳文でイカリが誕生させたしょーもない超能力をもつ姉については、3月の間にさんざんこすってきたがまだ味がするようだ。と、そんなたわいもない会話をしながら駅に着くころには、シバラクの気分も多少フラットに持ち直していた。

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