閑話・閉店後


「ありがとうございました!」


 アリスは今日来店した客の勘定を済ませて、その後姿を見送りました。


 しかし、ハッキリ言ってかなり変なお客さんでした。

 見上げるような大男なのに妙にオドオドしているし、私の事をまるで怖がって怯えているかのようだった。一瞬、「さては魔族であるこちらの正体を見抜かれたか?」とも思ったけれど、どうもそういうワケでもないようで。


 それに輪をかけて変なのが注文する料理の内容でした。

 「俺に相応しい料理」とか言われても困ります。


 私では判断しかねたので、とりあえず厨房にいる魔王様に相談してみました。

 その客の風体を尋ねられたので”五十歳くらいの男性”だと答えると、魔王さまは早速料理に取り掛かったのです。


 あれだけの情報で客の望む料理が分かったのでしょうか?

 やっぱり魔王様はすごい。


 そして数分後に出来上がった料理が「プリン・ア・ラ・モード」。

 あのお客さんの見た目からしてガッツリ系のお肉やお酒を想像していたので少し驚きましたが、魔王さまのすることに間違いがあるはずもなし。きっと大丈夫でしょう。


 万が一にもあのお客さんがこの料理を食べたくないと言ったのなら、それは魔王さまではなくお客さんが間違えているのです。もし間違えたのならば、それは正さないといけません。


 ……などと考えていたのは、幸いにも杞憂だったようですが。

 あの身体の大きなお客さんは「プリン・ア・ラ・モード」を夢中で食べていました。


 少し羨ましいです。

 あとで魔王様にお願いしたら私にも作ってくれるでしょうか?


 食べ終わったお客さんは、途中までのオドオドした様子などなかったかのように妙にスッキリと晴れやかな顔をしていました。きっと、さっきまでの妙な様子はお腹が空いていたせいだったのでしょう。


 それにしても不思議です。

 魔王さまはどうして「五十歳くらいの男性」という情報だけで、あのお客さんが「プリン・ア・ラ・モード」を欲していると分かったのでしょうか?


 というわけで、その日の夕食の席で魔王様にその事を尋ねてみました。

 その答えが「だって五十歳くらいの男の子なんだよね? 小さい子は甘いものが好きだからね」というのは流石に予想外でしたけど。


 確かに我々のような魔族にとって五十歳などよちよち歩きの子供にすぎませんが、人間の五十歳というのは老人一歩手前くらいの年代だったはず。その事を指摘すると魔王さまは驚いた様子で「でも喜んでくれたのなら結果オーライだよね」と照れ隠しのように笑いながら言いました。


 そんな魔王さまのことがどこか可愛らしくて、私もつられて笑ってしまいました。


 ああ、とても幸せな気持ちです。


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