午後四時〇〇分


 ひなびた港町から細い山道を二時間以上走り抜けた先に、その屋敷はあった。広い駐車場に入ると、大きなトラック一台とセダンが二台、停まっている。それらの車から少し離して、私は自身のおんぼろ軽自動車を停めた。


 降りようとして、ふと助手席に置きっぱなしにした一枚の領収書に目が留まった。領収書には探偵事務所の名前と、調査料として、という但し書きが記されている。私はそれをグローブボックスにしまい込んでから、ドアを開けた。


 暗い、鉛色の雲に覆われた空の下で、その館は堂々とそびえたっていた。館の中央には母屋が鎮座し、その左右に尖塔が一棟ずつ建てられている。それぞれの建屋には三角の屋根が乗せられており、まるでおとぎ話に出てくるお城のようだ。


 どうしてこんなことになったのだろう、そう私は自問する。


 母が立ち上げた小さな旅行代理店、その事務所で火災が起きたのは先週だった。焼け跡から黒焦げに炭化した死体が発見され、身元の特定は難航したものの、身に着けていた装飾品から、母と断定された。

 収入を失って大学を退学せざるを得なくなり、今や財産はこのおんぼろ軽自動車一台のみ。そんな中、ある男に呼び出され、今私はここに立っている。人生、一寸先は闇だ。こんなことが自分の身に起こるなんて考えもしなかった。


 玄関扉の前に立つと、深呼吸をしてから呼び鈴を鳴らした。


「よう、来たかミズキ。来ないかと思ってたが」


 分厚い木製の扉を開けて出てきたのは、短い髪を金色に染め、ストライプの入ったスーツを着た、大柄な中年の男だった。ごつごつとして威圧的な体躯たいくを、ブランド物の高級スーツの中に収めることで、男は暴力の匂いを隠すことに成功していた。


「タイガさんに言われましたので、来るしかありませんでした」


 身体が震えそうになるのを必死に我慢しつつ、タイガを睨みつけた。


「可愛い顔してるくせに度胸はあるな。そういう女は好きだ。入れよ」


 タイガはにやりと笑い、ドアを大きく開いた。


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