第34話 食事

 この二人、黙々と食べてやがるが他はそうでもない。

 セラートは毒見で一口食べた後、よだれをダラダラ垂らしながらアクェにご飯を食べさせている。

 ガタッと、机を軽く揺らしてパダスが立ち上がった。

 皿は空っぽだ、もう食べ終わってやがる。


「待てよパダス。しばらくはみんなここで過ごすんだ、軽く自己紹介し合おうぜ」

「世界は変わらないまま終わった。もうどうにもならない、人を無意味に殺しただけのヤツなんかに存在価値はない」

(お待ちください。ご主人さまのしもべとして、皆さまにはお伝えしておくことがあります。とても重大なことです)

「ん……何だ?」

(先程のお城やこの空間、それに皆さまのお部屋は世界の崩壊に伴い、いずれ消滅します)

「ああ……何となくそんな気してたけど。いつ消えんの?」

(このままですと、三日後にはなくなります。維持するには、世界を元の形に近づけていくほかありません。つまりは空間を創り続けるのです)


 えええええ!?!? とリネルが叫び、皆緊迫した表情へと変わる。

 勇者とオレ以外は。


「それだけでいいんなら、大したことなくね。創ればいいだけじゃん」

(創って、最新部へと到達し空間を完全開放する必要があります。全部で五百回ほど繰り返せば、世界は元に戻るでしょう)

「何だそりゃ、メンドクサ。そもそも元の世界になんて戻したくねェのに、最悪だな」

「元の世界と言っても、オレ様が分断するより前だろ? 大歓迎。シヘタ、面倒ならオレ様に全部任せとけ。一ヶ月もありゃ終わるわ」


 ヘラヘラと笑いながら、勇者は目玉焼きの黄身をフォークで突き刺す。

 半熟らしく、突き抜けた穴からドロリと黄身が溢れてる。

 食べ物で遊ぶなや。


 ……パダスが食堂を出ていく。

 まだ話終わってねーだろうに。


(別の空間への扉を一度に何個も、とはいきません。一つ一つ、空間を解放する必要があります。まずはセラートさまに頑張って頂きます)


 セラートは固唾を飲み、スプーンに掬った黄色い……コーンポタージュを器に溢す。

 その手は震え、ボタっとスープの中にスプーンが落ちた。


「私なんかじゃ、何もできずに死ぬッ」

(セラートさま、それほど難しいことではありません。食べ終わりましたら早速、この扉へ入ってください。そして森の最深部へと向かってください。まっすぐ進めば済みます)

「待ってください」


 手を上げたシエラの方へ扉前に浮く人形が向き、どう致しましたか? と無機質に訊ねる。

 何だ、この妙な不気味さは。

 オレの固有魔法のクセしやがって、何か意思でもあるような素振りだ。

 パッとシエラは勇者の方へ体を向ける。


「勇者さん、あの人形さんの言うことに間違いはありませんか?」

「え、オレ様に聞かれてもなァ」

「世界を分断する固有魔法、そんなものを持っているのですから分かるはずです」

「んん……知らないな。人形くんを疑っても仕方ないんじゃないか? シヘタくんは捻くれ者だからね。自分の思ったことを素直に喋ってくれる、みたいなとこも含め固有魔法なんじゃね?」

「ああっ、そうでございますか」


 力なく食い下がるものの、何か言いたげに唇を噛むシエラ。

 その目線の先では、セラートがガツガツと飯を食っていた。

 セラートのことが心配って訳か。

 ここはオレが追及してやるぜ。


「そんじゃ、世界を分断する固有魔法ってのはどういう仕組みなんだ? 自分の魔法のこと分からないはずがねーんだから、答えやがれッ」

「んん……あの世とこの世は元々繋がってたっつーと分かりやすいかね? そんな世界を切り離すってのがオレ様の固有魔法。ついでに住む生き物も、力での支配を訴える強者連中と平和を訴える弱者連中とで場所を分けてたんだが……こういった話は余計みたいだな?」

「分かってんじゃねーか」

「まあ、一度きりの特別な魔法だよ。強力な魔法ってのはそういうもんだ、シヘタくんのも世界を元に戻し終えたら使えなくなるさ」

「そこはどうでもいいって。オレらはこの人形の言ってることを信用できるような情報が欲しいんだっつの」

「キミの固有魔法だろう? 自分を疑うなんてのは時間の浪費じゃないかな」


 はあ、もういい。

 コイツから聞いても意味ねー、セラートに任すか。

 ……セラートは人形のことを少しも疑っていないのか、口に食べ物を詰め込み膨らませたまま扉を開いた。


「ひっへひはふ」

「待て、オレも行く」

(では追加でお二人までなら、何かあった時にお守りします。奥にある鍵は、セラートさま。あなただけが触れられます。あなたが一番奥へ進まなければなりません)

「まはっは」

「オマエは行かねーのかよ、勇者ァ……いいや、やっぱ来るな」


 勇者は目玉焼きの端をフォークで刺し、クルクルと回し始めていた。

 真面目に聞けよ、いくら強くてもこんなヤツ連れて行きたくねーわ。

 さて、アクェかシエラかの二択だが。

 アクェはセラートが世話を焼き過ぎる気がする、連れてくならシエラだな。


「私が行きます。別の空間がどんな場所か見ておきたいですし」

「おう! シエラ、よろしく頼むぜ」


 セラートが開けた扉の先では何かの音が、キイイィィン、ズダン、ズダンと鳴り響く。

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