第29話 開かずの扉

「もういいですよー……。シヘタさん、勝手にお風呂使ってしまい、すみません」

「そんなのいいってことよ!」

「ありがとうございます、ではっ」


 さて、そろそろ出るか。


 ……脱衣所には、足裏のはみ出た何かにバスタオルが敷かれていた。

 こうして放置されてるってことは、リネルは男の子だったのか? 女の子だと思ってたが、とりあえず触らないでおこう。

 

 ふう、乾かし終わった。

 こりゃ風呂入るのには一苦労だぜ。

 妖精のヤツ、今のオレを見たら毛深いとかって嘲笑うんだろーな。


(ご主人さま。勇者さまの部屋を用意し終えました)

「ご苦労。部屋は全員の分を用意してやりたいな」

(次はどなたの部屋をお作りしましょう?)

「んー。今はほとんど寝てるだろうし、優先順位を高い順で決めとくか」

(承知致しました)

「順番はセラート、オレ、アクェ、シエラ、リネル、パダス、勇者かな」

(ご主人さまが最優先ではないのですか?)

「まあな。オレのこたぁいーんだよ、それにセラートの次でも高い方だろ?」

(確かに。承知致しました)


『キミ自身の目的だけでもはっきりとさせておくべきだ。でないとキミの人生、そして彼女の人生までもが中途半端に終わるぞ』


 不意にまた、妖精の言葉を思い出す。

 こうなってくるとオレの目的なんてテキトーでいいように思えっけど、セラートのためにはペセタを確実に倒せるくらい、強くなんねーとな。

 ……槍持っとこ、確か最上階の武器置き場に二、三個立て掛けてあったはず。


 ん、実際見てみるとこれ違うなぁ!?

 釣り竿だ、これ。

 隣の小箱にはリールだとか入れてある。

 でもオレ毎日槍を振って鍛えてたし、釣り竿振ってた覚えなんてないぞ。

 誰かがすり替えたのか……?


「困った、槍は持っときたいんだが」

(それでしたら、槍のある空間へと繋ぎましょうか?)

「ん……やっぱあとでいいよ。他のヤツらの部屋を先に作る」

(承知致しました)


 勇者が敵じゃなくなろうがオレの目的は明確だぜ、打倒ペセタ! だ。


 部屋へ戻ると、パダスがあのまま床で固まっていていた。

 ……コイツ、起きてるかもしんねーけどセラート探すか。

 渡り廊下へと続く扉を開けると、前と違ってポツポツと白い光が見えた。

 シエラの固有魔法『光源』ってのはコレのことなのだろう。

 元は暗闇だった場所がこうして道になってんのを見ると、こういう魔法も役立つもんだナ。

 ……ん、シエラがセラートに膝枕してんのが見えてくる。

 奥にはアクェが突っ立って、ありゃ何してんだろ。

 

「どうしたんだ? そんなところで」

「ああっ、シヘタさん。この先に扉があるのですが、どうしても開かないのです」

「こりゃ、一階へ続く階段があった場所だ」

「ほほう」


 んん、開かない。

 まさか勇者がこんなクソみたいなとこに扉置かせたのか!?

 道塞がってんじゃねーかよ。


(ご主人さま。ここは──……──でしょう)

「何だ? もう一回言ってくれ」

(ご主人さま。ここは──……──でしょう)

「……シエラ。今人形が言ったこと聞き取れたか?」


 シエラには聞き取れなかったらしく、首を傾げてる。

 キュラリーで勇者から受けた魔法とは違うが、似てる感覚だ。

 はあ、やっぱ勇者を野放しにするんじゃなかったぜ。

 アイツの味方をここに連れ込まれたらおしまいだよ。


(その心配はご無用です。この空間に入れる存在は元々ここにいた七人のみです)

「でも、勇者のやつは何か企んでるだろ。こんなところに部屋の扉付けやがって……」

(勇者さまの部屋は反対側の渡り廊下、手前から三本目の柱に扉を付けられましたよ)

「へ? じゃあここは?」

(ご主人さま。ですのでここは──……──でしょう)


 あの、だから聞こえんて。

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