第26話 獣人のココロ 4/4(シエラ視点)
▱▱▱
「──それで、セラートさんとシヘタさんはボロボロになって戻って来たのですね」
部屋の外にある渡り廊下で、魔法の明かりに包まれながらセラートさんに回復魔法をかける。
「とにかく、そんな顔をリネルが見たらバカ笑いしてそれをパダスが怒り、部屋が大変なことになってしまいますわ。なのでその、手を離してくださいまし。このままでは回復魔法を使えませんわ」
「いい。獣人は強くなるために、仲間の助けを借りないようにしてるの。……ここで、治り切るのを待つよ」
「そんなことでは強くなれませんよ。意地を張って手に入る強さは、パダスのような紛い物です。強くなるには心と体を鍛えませんと」
ふう、手を離してくださいました。
分かってくれたようでなによりですわ。
回復魔法を掛けると、みるみるうちに元の可愛らしいお顔へと戻っていきます。
「痛いところはございませんか?」
「大丈夫」
「それは何よりです。しかしセラートさん、世界の声というのは……何を見聞きなさったのですか?」
「見えたのは……色んな種類の動物が同じ温泉に入ったり、獣人の起こした火で暖を取っているところ。世界は全生物の共存を願ってて、私たち獣人はそれを手伝うために自立してないといけない。同族じゃなくて、他種族と共に生きていけるように」
聞いておいてなんですが、お話が難しいですわね……?
だけど、リネルや男性たちに純粋無垢なセラートさんを任せるわけにはいきません。
同じ女性として、
しかし私、獣人との共存は考えていましたが、元の世界で取り組もうとしてあんなことにッッ。
……いいえ、もう過ぎたことですわ。
今は目の前のことに集中しないとッッッ。
「あ、あがっ。ごごぐっ」
「シエラさん、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですわ」
ど、どうしたんですの私は。
これくらい、パダスの暴走に比べればなんとでもなるはず。
そ、そう、なんとでもなりますわ!
でもセラートさんに掛ける言葉が何ひとつ思い浮かびませんッッッッ!!!
「……私もペセタさんと同じところを目指したい。でも、そこへ至るまでの残酷なことは、私で終わりにしたい。そのためには、意地だけじゃダメだよね。きちんと強くならないと。話、聞いてくれてありがとう」
「い、いえ。セラートさんのお役に立てて嬉しいですわ」
それで解決するような問題とはとても思えないのですが。
セラートさんがそう言うのであれば、よいですか……。
「決めた。私は自分なりの強さを磨いていく。シエラさん、私が心と体を鍛えるの、手伝ってください!」
「……そうですね。言い出したのは私なのですから、是非そうさせていただきます」
「では早速、シエラさんを通路の奥まで押し込みます!」
うっ、セラートさんが私を押し……んひ? 押されているのでしょうかこれは。
綿菓子でも押し当てられているのかと思ってしまいました。
セラートさん、なんて非力なお方なのでしょうか……それとも私の体重が重い……?
とにかく、私が魔法習得のために取り組んだ鍛錬を教えた方が良さそうですわね。
「あっ、あの。やめましょう。セラートさん、まずは腕立て伏せからやってみてください。腕立て伏せは……そうです。そのように構えて腕を曲げ……伸ば……」
その震える白い腕が曲げられた瞬間に、セラートさんは体制を崩し顔を床にぶつけ……いけません、鼻血を垂らしてます!
しかしながら、真剣なお顔です……。
「私には厳しい。もっと優しいのから始めさせて」
「分かりました。とりあえず回復魔法を。……では膝を付けて、そう。そのまま腕……ひっ」
今度はセラートさん、床へ思い切り顔をぶつけてしまわれました……。
お、起きる様子もありません。
とにかく回復魔法をっ。
「セラートさん、大丈夫ですか?」
「これなら私にもできそう」
「それはよかった。このほかにも数種類のトレーニングを一日三セット、一日にたくさんやっても効果は薄いですので、コツコツ続けましょう。私も共に励みます」
「頑張る」
そういえば、この暗黒に一日なんてものありませんわね? ……寝るまでに、と訂正すべきでしょうか。
「シエラさん、次は?」
「ええと、次はですね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます