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第21話 暗黒世界
「あらら、発動はしたけどこりゃ失敗だね」
「魔法に失敗とかあんのかよ!?」
「あるある。あの町は魔力の元となるエネルギーが少なめだったし、場所によっちゃ失敗はあり得る」
「先に言えよ、良いとこに移動すりゃ上手くいったかもしんねーのに」
「悪い悪い。しかしどういう状況だろうね、これは」
確かになぁ。
七人とも、ここに飛ばされたみたいだ。
……セラートは運悪くオレのベッド上にいて、床にまた唾液を吐いている。
って勇者のヤツ、さっきは殺せとか言ってたのに……パダスに回復魔法をかけ直してんじゃねーか、何なんだコイツ。
「おい勇者、そいつのこと殺すつもりだったんじゃねーの?」
「パッと外見てきたんだけど、こうしといた方がいいかなーってさ」
とりあえず、セラートに外の空気を吸わせるか。
その床に付いた手を取り、背中を撫でる。
「大丈夫か? 悪いな、こんなとこに出て」
「平気……ヴッ……」
「勇者、回復終わったら床片付けといてくれよ」
勇者は笑顔を引き攣らせながら頷いてる。
いっつも余裕ぶってんのに、何だコイツ。
扉を押し開け外に出ると……真っ暗で何も見えない。
部屋から刺す光で微かに、オレが住んでる城と同じってことは分かる。
ま、まさか。
オレは世界を滅ぼしちまったのか?
「何だよこれ。勇者、どうなってんだよ。失敗って、オレは何しちまったんだ……?」
「さあね。あとシヘタ、キミには一つ嘘付いてた。オレはね、力を分け与えていたんじゃなくて。人類とは似て非なる種族、ヒューマンが持つ古来の力を引き出してただけだ」
「あ? そんなん今は別にどうだって……」
「オレ様は人類の味方をしていたんだよ」
「それが何だってんだ?」
「先に謝っとく、マジですまん。キミの親父を殺さなきゃならなくなったのも、獣人が家畜になったのも全部オレ様の責任だ」
「んなこと知るかよ!」
コイツ……急にどうしたんだ。
バタン、とパダスの体が床に倒れる。
傷は治り切ったようだ。
「ありがとうございます……」
「しばらくすりゃ体動かせるようになるから、安静にしててくれ。とにかく今分かる範囲での状況な。元の空間でのヒューマンが固有魔法を使うためには、魂の素を大量に消費する。鍛えたり生物を殺すことで魂の素を蓄える上限は増えるが、オレ様のような魔族を殺さない限り、魂の素なんてのは手に入らない」
ん、魔族? うおおっ!? 勇者の片腕が紫色のトゲトゲした触手束に変わってく……。
「でもこの空間は魂の素で満ちてる。……あー、隠しごと多過ぎたな。説明が面倒だ。とにかくシヘタ、キミがもう一度固有魔法を使えば、今度は成功するってことだ」
「……オマエのことは元々詳しく知らねえし、別に構わねー。それより何をそんなに焦ってんだよ、勇者」
「焦る? いいや、オレ様は嬉しいんだ。元の世界じゃヒューマンを守ろうとしても、人類との衝突を避けるには人類に従うしかなかった。ようやくだ、人類のやり方を傍観し続けるような毎日から解放された」
「そりゃ良かったな。でもオレは魔法を使わねー。親父のことはあんま覚えてねーしいいけど、オマエは格闘家の町を滅ぼした。世界が一つに戻っても、あの町はもう戻って来ないんだぜ?」
「そうか、それでもいい。シヘタが固有魔法を使わないんなら、他の空間や魂は完全に崩壊して消えるし。一部分を失った世界は循環しなくなって、オレら全員餓死するだけだ。あー、一気に気が抜けて眠い! おやすみ!」
「おう。おやすみ」
餓死か、ヤダな。
勇者のヤツ、オレのベッドに入るなり寝息を立て始めやがった。
……なんか悪夢にうなされてるような表情だ、オレのベッドって呪われてんだろうか。
「あのー。アチシ、トイレに行きたいんだけど」
「トイレあっちな」
「へ? ドア出てきたぁ」
自分で手を向けた方を見ると、上階へ続くはずの扉が、他の部屋にあるはずの──トイレへと続く白い扉に変わっていた。
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