第18話 敵の敵も敵

 

 食べ終えて勘定を終え店から出ると、目の前には街灯で照らされた二人組が立つ。

 女と男一人、男は剣を持ってやがる。


「リネル、探したぞバカ。早く来い」

「バカはオマエらだ! おかげで餓死寸前だったんだぞ!」

「シエラ様、行きましょう」


 ──ヴッ、オ゛エェ。


 セラートが、地面へ唾液を吐き落とす。

 オレのニオイ! いいや、この男からか。

 土産物っぽい模擬刀持ってるし観光客か? ふざけた格好だし、剣には血の一滴もついていないが、妙に血生臭い。


「……シエラ様、コイツ獣人ですよ。隣にいるのはケモナーだ、初めて見た」

「パダス何を言って……あっ、獣人ですね」


 え? なんで分かったんだ。

 床に這いつくばっているセラートを見ても、特に普通の人間と違うところは……いいや、背中で尻尾がピンと張ってるのが分かるし、なんならニット帽も耳の辺り膨らんでんじゃん……。

 バレバレだ、これェ。

 今度はコイツらと戦うのか……?


「そう身構えずともよろしいですよ。わたくしたちはこの世界に潜む人類以外の皆さんが安全に暮らせるよう、まずは獣人問題に取り組んでおりまして。ここへは地下にある獣人屠殺場を止めに参りました。たった今、一仕事終えたところにございます」

「……ふーん。オレはシヘタ。この子はセラートで、そこのデカいのはアクェ」


 格闘家とやり方は違うが、同じ目的ってところか。


「そんじゃ。次んとこ行きましょうか。んで僻地の民家でも奪って寝泊まりしましょう」

「ちょっと! あの子を怖がらせるような話しないでくださいよ! す、すみませんねーオホホ……。この方、パダスは強いけど好き放題する悪い人でして……。その子、リネルは下衆で……ご迷惑をおかけしてすみません。本当に、早く旅を終わらせますのでご容赦を!」

「パダスは野蛮人だから。シエラ、コイツは一人で野宿させて、アチシたちで宿に泊まろ」


 シエラと呼ばれていたお姉さんが、頭を下げながら一万円札を一枚渡してくる。

 何だコイツら、仲悪そうだ。

 と、アクェの方へと男が近付いてくる。


「姫様の護衛、パダスだ。アンタ、どっかで見たような。……ああ、そうだ。勇者の仲間の処刑人。ってことはそこの二人も勇者の手下か……」


 男は束ねた金髪を揺らしながら、剣の刃をアクェの肩へと置く。


「丁度、勇者のこと探してたんだ。力があるのに何もしないようなヤツは、生きてる価値ない」

「ムダだ、ソイツ目も耳も不自由だし話せないから。それにオレも勇者のことは気に入らねー。倒すんなら協力するよ」


 男はこちらを向く。

 何だ? サングラス越しに目は見えないが、何か異様な……あたりの空気が澱んでくような。


「協力? 必要ないよ、倒したいわけじゃないんだ。そこにいる人狼のガキに勇者の力を分けてもらいたいだけ」

「バカヤロー! バラすなー!」


 じんろう……? 何だそりゃ、知らん。


「あ、あはは。騒がしくてすみません。それでは……」

「何で勇者の力が欲しいんだ? トサツジョーってのも何だが知らんが、壊せたなら要らんだろ」


 リネルは妖精に似たウザ顔でどことなく情けない表情をしながら、こちらを見上げる。


「人狼は獣人のようには相手にされてないけど、影でひっそり絶滅寸前になってんの! アチシは勇者パーティー魔法使いの末裔だし、魔法使えるようになればなんていうか、色々可能性広がるじゃん?」

「ん……。そこの金髪美女とは目的違うのな」

「そ! アチシは勇者から力貰ったら宮廷に帰るぅ」


 よく分からんが、あまり関わり合いたくない連中だ。

 しかし協力ぐらいはしてやるか。


「勇者なら呼べば出てくると思うぞ。おーい勇者、見てるんだろヘンタイ。出てこーい」


 すぐにポポンと音がし、アクェの隣に勇者が現れた。

 本当に来やがったよ。


「呼んだ?」


 すげーニコニコしてる……不気味だ。

 

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