第9話 獣人保護区 2/3
どでかい木の隣にある道場らしき建物を見つけ、中を覗く。
誰もいないし、何もない。
とりあえずここで待つか。
座って目を瞑っていると、妖精の言っていたことがなぜか、頭に浮かぶ。
『キミ自身の目的だけでもはっきりとさせておくべきだ。でないとキミの人生、そして彼女の人生までもが中途半端に終わるぞ』
何だよ、ヘンに決めつけやがって。
ただ、セラートたち獣人が食われてるなんてのはイカれてる。
今まで興味なかったが、この世界は歪だ。
オレはセラートが人間と同じように過ごせるよう、世界を正したい。
そのためには……。
「アチョ!」
ベシッと頬を叩かれる。
痛い、瞼を開くとチャイナ服の女がいた。
「出たな、格闘家!」
「まあそう殺気立てずに。嘘付いたのは謝る! ごめんなさい! それにセラートちゃんから話聞いたよ、勇者を倒すって」
格闘家は、オレの隣に座り込んだ。
「キミはどうするの?」
「……さあな」
ヒラリと落ちてくる葉に格闘家がアチョ、と手刀を振ると、葉は真っ二つに裂けた。
「何なら、今すぐ戦う? アタシ、毎日鍛錬積んでるから強いよ」
「……重罪人の始末ってのは、昨日、勇者から与えられたばかりの役目なんだ。まだ期日まで数日あるし、後で決める」
「じゃあ最期の、或いは決起のための食事会でも開きますか!」
格闘家から、力強く腕を引かれる。
コイツ、さっき葉を切った手刀といい強さをアピールしたいのか? 勇者みてーなコトするヤツだな。
「ここはね、町ができる前から降りの段差が出来てて、砂浜まで繋がってるの。海は流れが強くて、外から入れない。凄くない?」
「凄いか分からん」
「自然が作り出した奇跡だよ! 整地いらずで、アタシたちが隠れ住むにはうってつけの場所なの。防衛するなら洞窟を見張るだけでいい。それに土は栄養豊かで植物の育ちがいいんだ」
「おい。楽しそうに喋っちゃいるが、協力し合えば勇者に勝てるとでも思ってんのか?」
勇者は様々な魔法を使う。
対して、オレが使えるのは枯れかけた植物を癒せる程度の回復魔法だけだ。
レベルが高くなればなるほど、使える魔法の種類は増え効果は高まる。
勇者は魔法でテレポートしたり催眠したりできっしな。
力だって相当に強い。
正面から戦って、勝ち目のある相手とは思えんし。
秘策でもあるんだろうか。
格闘家は立ち止まり、こちらを振り向いて笑顔を浮かべる。
見ててなんだか悲しくなるような笑顔だ。
「キミの話を聞いた時、とうとうこの時が来たかー、って思ったよ。勇者には、みんなで力を合わせても勝てない。でもね、ここまで町を大きく出来たことが嬉しいんだ」
あっ、秘策とかないんだ。
オレと戦って勝てば、勇者のやつは役目を変える代わりに見逃すと思うんだが。
それすら諦めてんのかよ、何だかガッカリだ。
「……それより、獣人の保護はどのくらい続けてきたんだ?」
「アタシの前の代含めて三十年。獣人を奪いにくる人たちをアクェと協力して追い払いながら、今日まで続いてきた」
進んでいく格闘家を追う。
この町は、大きな波状を描くように段差が出来ている。
段差の間に作られた坂を降ると、まるっきり違う景色になった。
埋め尽くすように小さな家が立ち並んでいて、木に打ち付けてあるブリキの壁や何度も補強された痕跡のある屋根の家は、貧民街を思わせる。
「ここらの家もアンタが?」
「ううん、みんなで協力して水道通したり、電気通したりした。楽しかったな……」
「随分と思い入れがあるんだな」
「そう! この町こそ我が人生だよ」
自分で作った町、ねぇ。
そこまでしなきゃセラートの夢も叶わねーか。
住宅地をはじめ抜けると、どでかい藁屋根の施設が見えてきた。
「あれは?」
「移住管理局。半分は食堂も兼ねてる。さ、こちらへどうぞ」
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