第21話 魔牛バーガー
「すいません、ここに魔牛ハンターがいるって聞いてきたんですけど」
秀部くんが街の人に、魔牛専門のハンターについて聞いてみると、すぐに居場所がわかった。魔牛ハンターはこの街の集会場にいるようで、三人はさっそくそこへ足を運んでみることに。
「おっ?なんだい新入りかい?」
「いえ、俺たちは魔牛ハンターを探しに来たんです」
「ここには魔牛ハンターしかいねぇぜ」
集会場の中には何人ものハンターが居たが、それが全員魔牛専門のハンターだと男は言う。どうやらこの街に一般的なハンターは出入りしていないようだ。秀部くんは、マツカサへ来た理由をハンターたちに話した。
「よそ者がここの魔牛を獲るのは禁止されてるからな」
「そこをなんとか!お願いします」
「ちょっと協会の会長を呼んでくるよ」
どうやらマツカサに生息している魔牛を獲る場合には、『マツカサ魔牛協会』の許可が必要らしい。これは魔牛狩りの難易度が高いことが理由になっていて、あまりにも狩りが下手だと、どうしても周囲にいる魔牛たちのことまで無駄に刺激してしまい、何頭もの魔牛の肉がダメになってしまうからなんだとか。
「あんたが魔牛狩りをしたいって?」
「そうです」
「ふむ、あんたのハンターランクは星いくつだ?」
「七つ星です」
「おぉ…」
秀部くんが七つ星のハンターで良かった。さすがに最高ランクのハンターだけあって、協会の会長も驚いている。魔牛専門のハンターたちも、秀部くんに対する目がどこか変わった気がするな。
「そうだな、ウチのハンターたちと一緒に狩りをして見込みがあれば、あんたに許可を出そう」
「ありがとうございます」
「で、なんでそんなに魔牛の狩りをしたいんだ?」
「いえ、魔牛の肉で美味しい料理を作りたいと思って」
「料理?」
秀部くんはハンバーガーについて説明。半場雅さんも自らハンバーガーについて熱弁し、協会の会長も納得してくれた。無事に魔牛の肉を獲ることができれば、みんなにハンバーガーを振る舞うことも約束。いよいよ魔牛狩りの開始だ。
三人は魔牛専門ハンター四人と一緒に魔牛の居る草原へ。狩りをする場合は、向こうに気付かれない距離で待機し、隙を見て必殺の一撃をくらわせ、倒した魔牛を回収するというもの。
万が一、攻撃がミスった場合は、パーティー全員で全力で倒さなければいけない。そうしないと、興奮して暴れた魔牛に他の魔牛が刺激され、周囲の魔牛たちの肉までダメになってしまうからだ。
「魔牛を倒すにはこのハンマーを使うんだ」
「デカい!それに先が尖ってる」
「この尖った部分で、魔牛の眉間を打ち抜くんだよ」
魔牛の狩りには先の部分が尖ったハンマーを使う。それをまだこちらに気付いていない魔牛の眉間目がけて打ち込み、一撃のもとに沈めるのだ。攻撃の正確性が求められるため、熟練のハンターでもミスをすることは多く、それゆえに難易度は高い。
それに魔牛はデバフ耐性が非常に強く、眠らせる睡眠魔法や相手を操れる催眠魔法などは一切効かない。それに魔牛はかなり敏感な生き物でもあり、魔力を感じただけですぐに危険を察知してしまうという厄介な一面も持ち合わせている。
だからこそ、魔法使いは魔牛の肉を獲ることにあまり適しておらず、花ちゃんは今回見学というわけだ。
「おっ!ちょうどおあつらえ向きの魔牛がいるじゃねぇか」
「あれか」
「じゃあ、みんなギリギリまで近づくぞ」
一行は狩りの対象となる魔牛を見つけると、静かにギリギリの距離まで近づく。緊張感があるな。見ているこっちまでドキドキしてきたよ。無事に狩りをできればいいんだが…。ハンターのひとりが手で全員を制止すると、ハンマーを持った秀部くんが前で出る。
その両脇には不測の事態に対処するため、二人のハンターが武器を構えて同行。挟み撃ちするような形で静かに足を進ませる。と、そのとき、狙っていた魔牛が突然、寝始めた。これはラッキーだ。
「チャンスだ(小声の秀部)」
「ギリギリまで近づいてから、思いっきり打ち抜け(小声のハンター)」
「いくぞ(小声の秀部)」
「ガゴン!」
秀部くんが振ったハンマーが、魔牛の眉間を打ち抜いた。必殺の一撃をくらった魔牛は反応する間もなく絶命。彼らは無事に魔牛の肉を手に入れた。
「さすが七つ星のハンターだ!」
「ふぅ、かなり緊張しましたけどね」
「いや、最初の狩りでいきなり成功するのは稀だ」
「ほんとだぜ、あんたセンスいいよ」
「ありがとうございます」
狩りの様子を見ていた魔牛ハンターたちは、秀部くんの腕前に驚いていた。さすが歴戦のハンターだけあって、正確に眉間を打ち抜くのは、お手の物だ。狩りが終わったあとは、魔牛をリアカーに載せ、街へと帰還。
その後は専門業者によって魔牛は解体され、食肉用に処理されたあとは、それを集会場の調理場へ運ぶ。丸々一頭分の肉はかなりの量があり、余った肉はそのまま集会場のものとして使ってもらうことになった。
「ヨシ、じゃあまずは各部位を少しずつ使ってパティを作ろうか」
いよいよ魔牛バーガー作りの始まり。半場雅さんが言うには、肉の感じは和牛に似ているようで、パティ作りはそれぞれの部位を混ぜ合わせて行う。今回は特別にサーロインやヒレなどの部位も使い、贅沢なパティを作るようだ。
三人は各部位を切り分けると、そこから最適な量へさらに切り分け粗挽きに。それらを混ぜ合わせてパティを作ると、油を敷いたフライパンで焼き上げる。あぁ~、見ているだけでヨダレが出てくる。さっき食べた和牛バーガーも美味かったが、魔牛バーガーも食べてみたい。
そして、魔牛バーガーが無事に完成――
「ヨシ、それじゃ食べてみよっか」
「あっ、美味い!」
「これめっちゃ美味しい!」
「うん、いいぞ、思ったとおりだ」
三人は作った魔牛バーガーを味見。どうやら異世界に来て作ったハンバーガーの中で一番美味しかったようだ。三人とも嬉しそうな表情を浮かべている。
「これならいける」
「じゃあ、作れるだけ作りますか」
「ここのコックたちにも手伝ってもらおう」
魔牛バーガーの味に納得した三人は、調理場にいた他のコックたちにも声をかけ、ハンバーガー作りを手伝ってもらうことにした。魔牛一頭分の肉は大量にあったものの、気付けばかなり肉を消費していた。
「これだけ作れば十分だな」
「じゃあ、みんなに食べてもらいますか」
三人は作ったハンバーガーを集会場にいるハンター、魔牛協会や街の人たちに食べてもらった。皆、普段から魔牛の肉を食べ慣れているため、どういった反応が貰えるのか少し怖かったが、そんな心配は一瞬のうちに消えた。
「美味い!」
「美味すぎる!」
「お~い!もう一個無いのか!」
「こっちにもくれぇ!」
魔牛バーガーはマツカサの人たちを唸らせた。その美味しさは魔牛にしか出せないものがあり、食べた人たちは全員が絶賛している。大量に作ったはずのハンバーガーはすぐに無くなり、こうして魔牛バーガー作りは大成功を収めた。
その後、秀部くんは魔牛協会から魔牛専門ハンターの認定を貰い、半場雅さんの作った魔牛バーガーは協会認定のご当地メニューになることも決まった。
「転田さん」
「転生終了」
フッ――
「おかえりなさい、魔牛バーガー、大成功だったみたいですね」
「とても喜んでもらえました」
「味も美味しかったですよ」
「絶品だったね」
半場雅さんは魔牛バーガーを作れて大満足の様子。マツカサではご当地メニューにも採用され、今後異世界では確実にハンバーガーが流行るだろうなと確信する。これならマツカサの魔牛で新たな転生プランも作れそうだ。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
「今度はハンバーガー作り以外の目的で来ますね」
「ありがとうございます」
「また、ウチにもハンバーガーを食べにきてください」
そう言って半場雅さんは名刺を差し出し、自宅へと帰っていった――。
その後は三人でマツカサの魔牛をウリにした食い倒れプランを考案。魔牛バーガーをはじめとした現地の魔牛料理を堪能できる内容で、肉好きには堪らないプランだ。魔牛狩りを行っていれば、狩りの様子を見学できるツアーも行うことにした。
これは秀部くんが協会公認ハンターになれたことや、半場雅さんの魔牛バーガーによる功績が大きい。二人が居たからこそ、マツカサのみんなから厚い信頼を手に入れられたんだ。今後はマツカサでは顔が利くぞ。
こうして異世界でのハンバーガー作りは幕を閉じた。
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