第6話 洞窟

「わぁ、洞窟の奥、まだまだ続いてるね」


 洞窟へ入った一同は、すでにある程度中を進んでいたが、かなり広いのか、いまだにゴブリンたちとも出会わない。どんな洞窟も少し進めばすぐにでも戦闘が始まっていたが、どうやらここの洞窟は勝手が違うようだ。


「どこまで続くのかな?」


「いや、そろそろ広い場所へ出るはずだが…」


「あっ、あそこっ!」


 ひとしきり歩いたところで、ようやく暗い一本道を抜け出した。その先はまるでドームのような形になっていて、洞窟の中とは思えないほどの広さがあった。洞窟の中を掘ったのか?人間も暮らせそうなほどの作りだ。


「ぐぎゃー!!」


「ぎゃあ!!」


「がー!!」


 ドーム型の広い空間には多くのゴブリンが戦闘態勢で待機していた。戦う前からヤル気マンマンだ。おそらく先ほど、洞窟の手前で一体のゴブリンに見つかってしまったからだろう。


「拳、ここは俺たちにやらせろ」


「これだけの数とやるのは久しぶりだな、トーマス」


「あぁ」


 トーマスとパーシーの二人が前へ出た。どうやらこの数と二人でやり合うらしい。さっきは簡単に騙されて寝ていた二人だが、本当に強いのか?


「二人だけで大丈夫?」


「アイツらなら大丈夫、まぁ見てて」


 トーマスはデカイ大剣に、パーシーは槍か。二人とも武器はなんだかカッコいいのを持ってるじゃないか。やはり歴戦のハンターというわけか。


 そこから二人は目の前にいたゴブリンの大群を楽々と圧倒した。その強さから並みのハンターじゃないことだけはわかる。トーマスが一振りすれば周りのゴブリンは一瞬で両断。パーシーが槍で突けば、まるでゴブリンの串焼きの完成だ。


 ゴブリンたちよ。これは相手が悪かった。まぁ、最初から三つ星ランクの依頼がこいつらにとって簡単なものであることはわかっていたが、これほどとは。秀部くんと同様に頼りになる。


「あらかた片付いたか」


「そうだな」


「見てっ!あそこ!」


「あれがゴブリンの親玉か」


 花ちゃんの指の先には一回り大きなゴブリンがいた。豪華な王冠やらネックスやら身に付けているが、人間の真似でもしているのか?


「じゃあ、せっかくだから花ちゃん、最後魔法でお願い」


「いくよー!えいっ!!」

(大きな炎の玉がゴブリン目がけて飛ぶ)


「あべし!!!」


 ゴブリンの断末魔がむなしく洞窟内に響いた。花ちゃんが親玉ゴブリンを倒して一件落着。これにて討伐依頼は完了だ。


「そういえば、こいつ、えらく豪華な王冠やネックレスを身に付けてるな」


「もしかして、それもお宝のひとつなんじゃ」


「そういうことか!」


「やったのぉ!」


「じゃあ、手分けして探してみようぜ」


 ったく、コナンはちゃっかり王冠とネックレスを身に付けてやがる。『わしのものじゃ』と言わんばかりだな。抜け目ないヤツめ。


「おい!こっちにあったぞ!」


「こっちもだ!」


「まだまだあるぞ!」


 こうして宝物を漁り続けた一同は洞窟の外へ――


「いやぁ、いっぱい手に入ったな」


「これだけあったら、遊んで暮らせるんじゃないか」


「あはは!」


 洞窟で手に入れた宝物は、花ちゃんが魔法で出したリアカーにすべて乗せた。さすが、山賊のお宝だ。その量はリアカー二台分にもなった。コナンとは森を出たところで、別れることになり、四人は再び街のほうへ。


「私、また異世界来たいな」


「いつでも言ってよ、転田さんもきっと喜んでくれるよ」


「えへへ、じゃあこれからも異世界には通い続けるよ」


「うん」


 花ちゃんは今日一日で異世界を存分に堪能したようだ。いつでも来てくれていいからね。花ちゃん。


「トーマスとパーシーはこれからどうするんだ?」


「俺たちか?宝物ゲットしたし、しばらく休暇でも取るかな」


「じゃあ、南の島へ行くか!」


「いいな!ひゃっほー!!」


 トーマスとパーシーは休暇か。異世界のバカンスも味わってみたいものだ。


「じゃあ、ひとまず依頼完了報告を済ませるか」


「そういえば、お宝はどうするんだ…んっ?」

(リアカーに乗せていた袋の中から石ころが出てくる)


「あのジジイ…」


「おい!どうしたんだよ拳…ってなんだこれ!」


「はっ!?石ころ?」


「許さねぇ」

(体からオーラのようなものを発する三人)


「ま、まぁまぁ、三人とも落ち着いて」

(花ちゃんの声にハッとする三人)


「こっちの袋にはお宝入ってるよ」


 どうやら洞窟で手に入れたはずの宝物は、コナンがほとんど持って行ってしまったらしい。リアカーの荷台に乗っていた袋の中身は半分が石ころだった。次ぎ会ったときは痛い目を見てもらおうか…コナン。


 だが、幸いにも半分は宝物が残っていた。これを四人で山分けだ。討伐依頼の完了報告を行ったあとは、宝物を査定してもらい、換金。討伐依頼の報酬は大したことはないが、換金した宝物はかなりの金額になった。


「転田さん!」


「転生終了」


 秀部と花は異世界から現実世界へ――


「おかえり」


「ただいま」


「帰りましたぁ」


「どうだった?花ちゃん」


「とっても楽しかったです!」


 異世界で見た魔法使いの花ちゃんもかわいいが、現実世界の彼女もかわいい。本当にかわいい子は何を着ても似合うものだ。


「花ちゃん、見てたよ、魔法上手だね」


「えへへ、私魔法使い向いてるかもしれません」


「花ちゃん、モンスターいきなり手懐けちゃうんだもん」


「そうそう、私も見てたよ、あれはびっくりしたね」


「そんなにすごいの?」


「すごいよ!あんなことできる人いないからね」


「そうなんだぁ」


 初めての異世界転生を経験した花ちゃんは、それからたびたび秀部くんと異世界へ行った。彼女も異世界の魅力に惹きこまれ、インストラクターとして働きたいというのだ。こんなにかわいいスタッフを抱えられるなんて、私は幸せ者だ。


 花ちゃんがとても真面目な性格の持ち主であることもわかった。秀部くんとの転生では、異世界について色々と学び、経験も積んでいった。だが、それ以外に大切な問題がひとつあった。


「客が来ないよ~」


「たしかに、花ちゃんがウチに来てから数週間が経ちましたけど、まだお客さん来ませんね」


「あっ、そっか、ここは異世界転生屋さんだった」


 花ちゃんの言う通り、ここは異世界転生屋さん。誰だろうと、異世界へ転生させることができるというのに、なんで客が来ないんだ。Webサイトまで作って準備を整えたというのに。商売は決して甘くないということだろう。


「サイトのアクセスは…」


「どんな感じ?」


「毎日数人からのアクセスはありますね…でも…」


 はぁ。漫画やアニメだと異世界転生は流行ってるくせに、なんで現実世界だと誰も転生したいと思わないんだ?ここに転生させられる人間がいるというのに。


「あっ!?」


「んっ?なんだい?」


「予約が入ってますよ!」


「やったー!!」


 初めて異世界転生の予約が入った。ようやく商売としての一歩目を踏み出したぞ。これでもう少し知名度が上がれば、きっとどこかで軌道に乗るはずだ。


「で、その予約はいつなんだい?」


「えっと…今日、です」


「えっ?」


「それも、これからすぐ」


「えぇぇぇぇ!?」


 これからすぐ客が来るだって?一体どんな人が来るんだろう?男か?女か?いやぁ~、なんにしても楽しみだ。花ちゃんは最初の客として来てくれた女の子だけど、予約から人が来るのは初めてだ。


「秀部くん、花ちゃん、初めての客だ、失礼のないようにね」


「はい!」


「はい!」


「ピンポーン」


 来た!ついに初めての予約客が来た。


「花ちゃん、出てもらってもいいかな」


「はい」


「ガチャ」


「あっ、本日予約してた苅野かりのと申しますが…」


「どうぞ、こちらへ」


 初めての予約客は男性か。声の感じだと私と同じくらいの年か?落ち着きのようなものを感じたな。

(スタスタとこちらへ歩いてくる音が聞こえる)


「どうぞ」


「よ、予約してた苅野勉二かりのべんじだす!」


「いらっしゃいませ」


「異世界転生できるって、ネットで見たんですけども」


「えぇ、そうです」


「そうですか、ワス、ワス…、美少女に転生したいんだす!」


『ワス』?『だす』?随分訛りの強い人だな。最初は同じぐらいの年かと思ったけど、学生服を着ているな。まだ、学生なのか?


「えぇ、美少女の希望も可能です」


「そ、そうだすか」


「それではこちらへおかけください、まずはカウンセリングを行います」


 こうして初めての予約客が来店した。

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