2

(中略)


 誰かが、なんで、と呟く。

「急にこんな大雪も降ってきたし」


(中略)


「と言うことは」

「どう言うことや、トーリくん」

「この中に、犯人がいるってことだね」

 騒然とした空気が、ほのかに林檎が香るペンションを包んだ。

「嘘やろ」

 沈黙が走る。一人欠けたミステリー研究会に、疑心暗鬼が満ちていくのが分かる。

「て、てことで!とりあえず、まずはアリバイを整理しよう」

 パパは明るく言ったが、しかし(中略)暗澹あんたんたる空気は払拭できなかった。

「ワシは昨日、川田くんとポーカーやってたで。お互いが証人や」

「たしかに、僕たちはポーカーやってたっすよ」

 二人はお互い頷き合い、安心したような表情をした。

「私は」


(中略)


「て、てことで、整理すると、私以外はアリバイがあるって感じかな」

 皆沈黙している。しかしその行為はパパにとって肯定に等しかった。パパは悲しそうな目をした後、そっと立ち上がる。

「どこ行くんすか」

「私の部屋。あるものを取りに行きたくてね」

 数分して、パパは手にデジカメを持って戻ってきた。

「この写真を見て欲しいんだけど」

 パパはそう言うと、デジカメをいじり始めた。そして皆にその画面を見せた。

「ね、見える?」

 パパが見せた画面には、確かに写っていた。現場に落ちていた、血の付いたナイフをその右手に握るオーストリアが写っていた。

「い、いや、ワシはやってへんで」

「みんな、そう信じたいっすよ」

 オーストリアの表情には、焦りと興奮が見える。ただ、よく見るとその中に嘘が見える。


「てことで、この説明をして欲しいところだよ」

「そうだね」

 トーリが探偵ぶる。パパがゆっくりとターンテーブルに着いた。

「こ、今度のミステリーの実証をしようと思うたんや」

「じゃあ、なんでナイフに血がついているの?」

 オーストリアは言葉を出すのも躊躇しているようで、口を閉じている。

 ということは、だ。トーリは考えている。オーストリアが犯人となると、互いに証人であったはずの川田も犯人になる。

「もう、いいかい?」

 トーリのその問いかけに、答える人はいなかった。いや、答えることができなかった。

「この事件の犯人は」



「やあ、久しぶり」

「あ、先輩、久しぶりっす」

 先輩は研究会の机の上にあるカード類を見ると、微笑んだ。

「マダミス、やっぱり楽しい?」

「楽しいね」

「ってことで決着もついたし、先輩と一緒にもう一戦始めるとしよう!」

 先輩があのペンションで、持病によって伏して半年。一人欠けたミステリー研究会は、この日で元に戻る。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミスターミステリアスミステリー 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ