第8話 卒業式

「これにて卒業式を終わります。三年生は順番に教室へと戻ってください」

 司会のアナウンスの元、順番にぞろぞろと体育館は出ていく。

 この間、在校生やその場にいる保護者達からの拍手に包まれながら、司会のアナウンスの元、順番にぞろぞろと体育館は出ていく。

 そして体育館から教室へと戻る途中、何人かはこの時点でボロボロに泣き始めている生徒が目に入る。


「うぅ……私達卒業しちゃうんだ……」

「うん……楽しかったよ。この三年間……」


 三年間を振り返りながら感傷に浸る生徒もいれば、逆にケロッとしている生徒もいる。ちなみに僕の隣にいる美結はというと……

「あはは……みんな凄い泣いてるね。僕も少しじわっと来るものはあったよ。ねぇ美結?」

「……う、うん……ぐすっ……」

「美結⁉ もしかして泣いてる……」

「いや、これは違くて……ちょっとだけ目が痒くて。あれ、目にゴミが入っちゃったかな~」

 ベタではあるが、その瞳には小さな雫が溜まっており、今にも頬から下にかけて零れ落ちそうだった。

「はいはい……別に誤魔化さなくていいのに……」

「ちょっ! 本当に違うの!」

 こんな時でも、美結は相変わらずといった感じで、安心する。

 これまで美結とたくさんの時間を共有して過ごした。文化祭の時や、美結の傍にいた時……思い返すとけっこうあるな……


 そうして各教室で高校生最後のホームルームの時間が終わり、ここからはそのまま帰るもよし、先生や友達と写真撮影に勤しみ、思い出に残すもよしな自由時間になった。

「中村君! 美優~!」

「絵里香!」

 教室に響き渡る北沢さんの声が僕らの耳まで響き、すぐにそっちを向くと、北沢さんだけじゃなく英二も立っていた。どうやら二人のホームルームは既に終わったらしい。

「いや~本当に終わっちゃったね……私たちの青春の全盛期」

「いや、まだ大学に行く人は青春の時間が残ってるでしょ……」

「それは進学するだけの話! 少なくともあたしは就職するから無縁だもん!」

「あはは……でもそれを言うなら英二もでしょ?」

「え? そうなの?」

「まぁ……な。特に進学してまでやることも無いし……」

 最終的に僕と美結は進学を選ぶことになり、僕はギリギリ第一志望の大学に入り、美結のは余裕で合格することが出来た。



「マジか……ありがとう! これで私は完全にボッチじゃない!」

 そう言って北沢さんは英二の体目掛けて抱き着こうとする。

「ちょっ……あんまりこっち来るなって。加藤さん、こいつ引っぺがしてくれ……」

 そう言いつつ、英二は北沢さんの頭を押さえているが、不思議と今日の英二はそこまで不思議と嫌そうには見えなかった。

 むしろ満更でもなさそう……?

「うーん……いいんじゃないかな? 今日ぐらいは」

「な……」

「ほらほら~最後の高校生としての時間なんだから、ちょっとぐらい浮かれても良いんだよ~?」

「けど、普段から北沢さんは浮かれていない?」

「中村君……君からそう言われるなんて……ショック……」



 教室で長々と三年間の思い出を話しながら、僕達は正門の近くまで歩いていた。その前にお世話になった先生や、そこそこ話していた友だちとは一緒に写真を撮ったり、お礼の言葉を伝えたりもした。

「じゃあ……またいつかこの四人で集まろうよ! 佐藤君が来てくれるかどうかは分からないけど……」

「俺と北沢は就職してからは忙しくなるだろうし、難しいとは思うけどな」

「ってなったら誘っても英二、『忙しい』とか言って来てくれなさそう……」

「いや……一応、誘われたら行くぞ? 予定が合えば…だけど……」

「英二……」

「佐藤君……! 佐藤君が初めてデレた!」

「はぁ? 別にデレたとかそういうんじゃないからな……!」

「はいはい。誘われたら絶対行くって素直に言えばいいのに……素直じゃないんだから~」

「じゃあ……俺はこっちだから」

「うん。じゃあまた……!」


* * *

 そして美結と二人きりになった帰り道。ここからは大学も違うし、もっと顔を合わせることも減ることになると思う。だから……

「「……あの!」」

 あの提案を出そうとしたタイミングで美結と声がハもった。そんな美結の顔はリンゴの様に真っ赤になっていた。

「いいよ。中村君からで」

「うん。えっとさ……お互い、違う大学に行くことになるでしょ? それで会う時間も減ると思うんだ。だからもし、美結が良ければなんだけど……」


「…………一緒に暮らさない?」

「……」

 その提案を聞いた美結は、衝撃的だったのか、大きく開けた口を両手で塞いでいる。

「……実は私もその提案をしようと思ってた……」

「ぷっ……あはは! やっぱり私達、似てるね。やることも急というか……似たもの同士だね!」

「だね……はぁ……緊張した。えっとそれで返事の方は?」

 そうして一つの笑みから発された彼女の返事は……

「勿論……私で良ければ!」

 やっぱり、この提案をして本当に良かった。それに美結も同じことを考えてたなんて……やっぱり僕達、似たもの同士なのかもしれない……!

 

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チノ距離、短編集〜 ホオジロ夜月 @coLLectormania

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