第40話 マスコミはいつも煽ることしかしない。だから内容が正しく伝わらないんじゃないかと
悠斗の一件は世論を大きく賑わせた。Fランク落ちした彼がものの数日で単独でCランクまで上り詰めるという快挙。直前に、そのことが大々的に報じられたのも大きかった。
「新聞もテレビも、飽きもせず似たような報道ばかりね……」
「しかたないですよ。何人も犠牲者が出たんですから……」
「それでも犠牲者があれだけで済んだのは奇跡のようなものです」
「だよね。下手したら日本がスライムに占拠されたかもしれないんだから」
彩愛たち四人はお疲れさん会、という名目の女子会を開いている真っ最中だ。当初は立役者である彼女の慰労会という形で結衣が提案したのだが、全員が力を合わせた結果の勝利だと彼女が主張したために、この形となった。
当初は五郎も参加したいと言っていたが、彩愛を除く三人から謎の圧力を受けて泣く泣く欠席となった。
「アイツは重大なルール違反を犯したんです」
「ふーん。何やったんだ、アイツは」
「彩愛さんには関係ないから、気にしなくてもいいですよ。ホホホ」
「……?」
結衣の説明が要領を得なくて、彩愛は話を聞いても首をかしげるだけだった。その中で出る話題の中には、当然ながら悠斗と変異スライムについてのこともあがる。
結局、悠斗だけでなく、彼に唆されてマスターに強化してもらった探索者は全員スライムになって彼の道連れにされた。それだけでなく、濃厚接触者――いわゆるナニをした人たちも同様にスライムに。さらには、あの場で強制的に濃厚接触された人も少なくない。
「でも、スライム化って悠斗が引き金だったんでしょ?」
「そう言われていますけど。爆弾を抱えているようなものですから……」
決闘当日、強制的に濃厚接触された人はスライム化する予兆はない。だが、彼らもいつスライムになるかと怯えながら生活しているような感じだ。研究者の間では「桜井悠斗が消滅したので、今後スライム化することはない」と言っているが、ワイドショーなどでは信用されていなかった。
「無害化したスライムRNAを接種するらしいけど。どうなん?」
「うーん、信用していない人が多いんですけど、みんなするからする。って人も多いみたいですよ」
「正直どうなのかと思いますけどね。変異種には効かないみたいですからね。あの場ですら、変異種が七種類もいたらしいですから、効果ないって意見の方が多いですね」
彩愛と結衣の話に花蓮が割り込んできた。彼女は回復系魔法を活かして医療機関でアルバイトをしている。今回の件は色々と公にできない事情もあるが、それも軽々しく人に言わないことを条件に聞かされていた。
「しかし、こんな事態が起きるなんて。もしかしたら、重慶で起こったスライム大量発生も、今回と同じ原因だったりして……」
「実は、今回の事件が公になったことで、ネット上では「あの事故」もこれが原因だと言われているんですよ」
「マジで?!」
空気が重くなったのを払拭するべく、冗談めかして彩愛が言った言葉。だが、それも一部では真実だと語られていることに、思わず身を乗り出して大きな声を出してしまう。
そんな空気を察してか、花蓮がパンパンと手を叩いた。
「はいはい、どっちにしても終わったこと。危機ではありましたけど、私たちは無事に乗り切った。それでいいじゃないですか」
「そ、そうだね。まあ、こんなトラブルは二度とごめんだけど」
「大丈夫でしょう。私たちが力を合わせれば、何とかなりますよ」
「ああ、確かに。私もあの時は自分の可能性が見えたしなぁ……」
そう言って、うつむく彩愛。上限の低い彼女は他の三人より先んじて、元の大きさに戻っていた。今は四人とも横並び。これから埋めがたい差が生まれることに、彩愛の口から思わずため息が漏れる。
「あ、そうだ! この間の、私にOP集めるやつ、またやってよ! お・ね・が・い!」
彩愛の突然の提案に、結衣と愛菜は顔を見合わせる。一方、花蓮は少し困ったように眉を寄せ、静かに口を開いた。
「彩愛さんの頼みですから、それは構わないのですが……。あまり意味がないかと」
「いいじゃない。やってみるだけ、ね?」
「わかりました」
こうして、三人の力を集結させた彩愛は、あの時のようにPまでは届かないものの、Kまで到達することができた。感涙にむせぶ彩愛を残念そうな目で三人が見ていた。
後日、彩愛は花蓮に泣きついていた。
「も、元に戻っちゃったんですけど……」
「それは当然ですよ。コップにバケツの水は入りませんからね」
「そ、そんなぁ……」
涙を流して地面にひざまずく彩愛。だが、それは彼女たちが勝ち取った平穏だった。
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