第15話 現実はエロゲよりもエロゲでした。それより、ネズミ叩きでストレス発散します

 結衣のリハビリも兼ねて葛西ダンジョンへと潜入した彩愛たちは、順調にダンジョンの中を進んでいた。


「はっ! えいっ!」


 結衣は彩愛と同様に、機敏な動きで相手を翻弄するような戦い方が得意なようだ。忍び寄って背後から仕留めるだけでなく、回避してからのカウンターによる攻撃でもネズミを仕留めている。


「いい感じに慣れてきたみたいね」

「はい、おかげさまで……」


 少しだけ表情に明るさが戻ってきてはいる。だが先ほどのこともあってか、まだ浮かない顔をしていることが多かった。


「アイツのことは気にしない方がいいわ。それよりも、何があったか教えてもらえるかしら?」

「はい、実はあの人からは最初にあった時からしつこく付きまとわれていたんです。最初は私の方がパーティーに入りたいと言ったのですが……。そんなことがあって、辞めようかと思っていたのですが、逆に五郎が意欲的になってしまって言い出せなくなってしまったんです」


 状況としては、お互いがお互いのことを尊重するあまり、どちらも辞めると言い出せないまま、抜け出せなくなった。彩愛は不安がらせないように笑顔で尋ねていたが、その話を聞いて笑顔が引きつっていた。


「まあ、良くある話ね。それから?」

「その後、ご存じの通り、あの人が五郎を囮にしてダンジョンから逃げてしまいました。私も結局、五郎を置いて逃げてしまったので、同罪なんですけどね。五郎はパーティーに入っていないので、手続きなどは何もせず。そのまま宿に戻ったのですが……」

「そこでアイツに襲われたと」

「はい、五郎のことがあきらめきれずに、助けに行こうと訴えようとした時に。力では敵わないので、成す術もありませんでした。その後、五郎は無事に帰ってきたのですが、あの人に、逆らったら先ほどのことをばらすと脅されました」


 それを聞いた彩愛は神妙な顔をしながら考え込む。しかし、彼女の口から洩れたつぶやきは「何という、エロゲ展開……」だったので、どこまで真剣に考えているかは怪しいところだ。


「その後は、五郎がパーティーの和を乱したという冤罪を理由に加入を認めないと言ってきました。だけど、私が言うことを聞くなら考えなくもないと……」

「それで、あの動画の展開になったわけね」

「はい、何度も撮り直しさせられました。最後には私の方もわけが分からなくなってしまって……」

「なるほど、それはすば……許せませんね」


 この時、彩愛の様子が少しだけ挙動不審になっていた。もっとも傷心の結衣が、それに気付くはずもなく、思いつめた表情で話を続ける。


「結局、全部無意味でしたけどね。パーティーにも入れず、五郎にも……ああああッ。うぅぅぅ」


 全てを失った結衣は、感極まって叫び声を上げると、そのまま泣き崩れてしまった。彩愛は、そんな彼女の肩を優しく叩いて慰める。


「結衣が気にすることではないわ。だいたい、アイツの方が悪いわけだし。次に見かけたら、たっぷりとお灸を据えてやらなきゃね」

「でも、私が……」

「まあ、そっちは置いておいて……。さっさとリベンジと行きましょう」

「は、はいっ」


 さくさくと奥に向かい、あっさりとボス部屋に辿り着いた二人。そこにはまだ、悪臭の元がそのまま残っていた。


「はい、それじゃあ。これを付けてね」

「はい」


 二人はガスマスクを付けると、扉の前へと向かう。扉を開けると、その先にはアルジャーノンと巨大ネズミたちが――。


「あれ? ほとんどひっくり返っているわね」

「そう、ですね」


 彩愛の言葉どおり、ネズミたちのほとんどは、あまりに酷い悪臭によって気絶していた。辛うじて無事なのはボスネズミと、その影武者だけだった。


「これなら余裕かな?」

「ですね……」


 しかしボスネズミと思しきネズミは、彩愛を見た瞬間に大きな鳴き声を上げた。


「チュチュチュチュー!」

「うわっ、起き上がってきたよ!」

「でも、フラフラですね……」


 ボスネズミに発破をかけられた巨大ネズミたちは、何とか起き上がった。ふらつく足取りで、諸悪の根源である彩愛を葬ろうと最後の力を振り絞る。


「こっちは私が対処するわ。結衣はボスを」

「わかりました!」


 よほど悪臭が危険だと感じたのか、ボスネズミの方へ結衣が向かっても、巨大ネズミは見向きもしない。一方、彩愛は高圧洗浄機のノズルを向けて、スイッチを入れた。


 プシャアアアアアア!


 ジェット噴射される水に呑み込まれた巨大ネズミは一匹、また一匹と溺死していく。だがネズミの方も屍を乗り越えて彼女へと迫る。


「甘いわ。そんなフラフラじゃ話にならないわ」


 最後の巨大ネズミが絶命した時には、彼女の前に巨大ネズミの死体が山のように積み上がっていた。


「こっちは片付いたわ。あとは結衣の方で頑張ってね!」

「はい!」


 巨大ネズミという兵隊を失ったボスネズミは、自らを守らせるために、影武者を配置する。しかし、それは自らの位置を結衣に伝えただけだった。


「はっ!」


 もともと悪臭によって気絶しないまでも弱っていたネズミたちでは、結衣の動きについていけるはずがなかった。あっさりと彼女に狙い撃ちにされ、ボスネズミだけを瞬殺されてしまった。


「どうやら終わりみたいね」

「ええ、やりました」


 ボスを失った影武者ネズミが蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。しかし、そう簡単な話ではなかった。ボスネズミの死体から黒いドロリとした液体がこぼれ、一番近くにいた影武者の身体に吸い込まれて行く。


「チュチュー!」

「なっ、倒したはずなのにボスが委譲された?」


 新しいボスの号令で影武者たちが強制的に招集されてしまった。

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