魔王がユーチューバーになっていた

お小遣い月3万

第1話 かつて勇者だったけど

 新幹線に乗って魔王がいる街に向かっている最中、窓の外から見える日本のありきたりな景色を眺めていた。

 昔々あるところにいた勇者パーティのことを思い出して息ができなくなる。

 窓から猛スピードで流れていく景色は、仲間と共に過ごした時代とは景色が違った。



 かつて世界を救った勇者が新幹線に乗っていると誰も思わないだろう。人々の手にはスマホが握られ、耳にはイヤホンが突っ込まれて、誰も隣の人を意識していない。


 俺達のことを語り継いだ童話は、時代と共に話が変わっていき、今じゃあ、かつての仲間達は犬や雉や猿になって登場するようになっていたし、俺は桃から生まれたことになっていたし、魔王は赤鬼になっていた。


 時代が変わっても俺は呪いのせいで生き続けていて、かつての仲間達の顔も思い出せなくなっていた。

 友の顔を思い出せなくなり、妻の顔も思い出せなくなり、息子の顔も思い出せなくなった頃に死ぬことを考えたけど、それから何百年の月日が経っても、まだ俺は20歳の姿のまま無様に生き続けていた。


 そして、かつて戦った魔王がYouTubeチャンネルを開設していて、それを見つけてX(旧Twitter)で連絡をとって、新幹線に乗って会いに行くことになった。

 

 前に魔王と会ったのは1200年前のこと。俺達は自分達の正義のために戦って、最終的には俺達が勝って、魔王の魔力を封印した。

 魔王は、ただの人になった。


 魔王がただの人になる時に苦し紛れで賢者の石を使って俺に呪いをかけた。

 賢者の石は7つ集めなくても願いを叶えてくれる魔法の石で、できないことも多いけど俺に呪いをかけることぐらいは出来る代物だった。


 仲間がその呪いを魔法で跳ね返そうとしたけど、俺は呪いにかかってしまった。呪い返しは効果があったみたいで魔王自身も呪いにかかった。人を呪えば穴も2つになるのだ。


 その呪いこそが、長寿だった。

 仲間が死に、妻が死に、子どもが死んでも生き続ける。魂は消耗して、何を見ても面白くなくなり、何を見ても悲しかった。長く生き続けるというのは立派な呪いである。


 ただの人になった魔王は藤原氏の城に閉じ込められて、何度も処刑されたけど、ただの人になったはずなのに首をはねられても首を吊られても水につけられても日本刀でお腹を刺しても死ななくて、長いこと牢屋の中にいたらしい。

 月日が経つにつれて魔王の脅威を知らない人が支配するようになり、魔王は外に出されることになった。その後の行方は不明である。


『魔王ララライチャンネル』を見つけた時は椅子からひっくり返って驚いた。

 確認するためにチャンネルにある動画を全て鑑賞した。

 大食いだったり、ファッションだったり、カードゲームだったり、テーマ性がないぐらい色んなことをしていた。バライティーチャンネルなんだろう。

 全ての動画を確認した結果、彼女は魔王で間違いなかった。

 それなりに美貌もあるせいでチャンネル登録者数は15万人ほどいた。


 気づいた時には連絡を取っていた。

 ダイレクトメールで返ってきた彼女の文章は軽く、絵文字まで入っていて、その軽さにそそのかされるように会う約束までしていた。


 でも魔王と、どんな顔をして会えばいいんだろうか? 昔々あるところで戦った敵同士である。彼女の大切な魔力を俺は奪い、彼女は俺に最悪な呪いをかけた。

 どんな顔をしていいかわからなかったけど、当時のことを知る人に俺は会いたかった。それが魔王だとしても。


 新幹線から見える景色は灰色で、かつて一緒に向かった仲間はいない。

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