第26話、メイドレポート

 出会いはそう。

 スラム街の片隅でした。

 ――さむい

 ――ひもじい

 ――もうしにたい


 当時五歳の私は、スラムの道端で両ひざを抱えて座り込んでいました。


「お母さま、この子はどうしたの」


 頭の上から声がしました。

 ゆっくりと顔をあげます。

 きれいな服を着た母子おやこが立っていました。

 ぼうっと見上げていると、


「助けてあげてよう」

 きれいな男の子に手を引かれたのです。


 これがご主人様との出会いでした。


 スラムから拾われた私は、ご主人様の館でメイド見習いとして生活し始めます。

 優しいお母さまに穏やかなご主人様。

 まるで陽だまりのような幸せな日々が終わったのは、私とご主人様が10歳の時。

 お母さまが原因不明の病に倒れ、悲しくなられたのです。


 原因は、アレは、…………キイエエエエ


 です。


 それが不幸の始まりでした。

 今まで、お父様は浮気相手の家から帰ってこなかったのです。

 お母さまが悲しくなった途端に、お父様と浮気相手が館に乗り込んできたのでした。


 ご主人様と私は館を追い出され、はしの物置に追いやられました。


 お父様と義母ははと同い年の義弟おとうとにいじめられる日々が続きます。

 三度の食事が一度になり、機嫌が悪いとそれすらも抜かれていました。 


「これを食えよ、俺の実家は兄弟が多くてなあ」

 平民出身の護衛騎士様が食事を差し入れてくれました。

 大きくなれたのは護衛騎士様のおかげです。

 あと少しで16歳。

 ご主人様と私は成人します。

 成人したらご主人様と私はこの家を出て行くつもりでした。

 護衛騎士様もついてきてくれると言ってくれます。


 成人の日が近づいたある日。


「領地の奥に今は使われてない別荘がある」

「そこに行け」

 とお父様に言われました。

 まだ未成年である私たちは逆らうことは出来ません。

 ご主人様と私、そして護衛騎士様の三人で別荘に行きました。


 そして……



「うふふ、もう誰にも邪魔はさせませんよ」

 ベットで横になられているご主人様の布団を直した。

 足元には私の胸を刺したナイフ。

 床一面に広がる私の血痕。

 襲ってきた者たちのも混じっていますね。

「ふふ、全てが終わったらお掃除しなければ……」


「ご主人様、少し離れます……」

「が、護衛騎士様がいてくださります」


「……村に行ってきます……」

「お待ちくださいませ」 


 その夜、


「イイいいヤややアアああアアアア」


 限りなく絶叫に近い鳴き声ともに、館の近くにあった村が夜明けまでに消えた。

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