第8話、メイドデンプシーロール
ご主人様と専属契約。
それは、ご主人様とメイドの素敵なマリアージュ。
メイドの全てはご主人様のもの。
ご主人様もまた……
「お前が、”ルリ・フローレス・キザクラ”だなっ」
小柄なメイドが言った。
……胸部は小柄ではない。
幼い顔立ちに燃えるような赤毛。
肩までのソバージュにしていた。
「彼女がルリよ」
私はすかさず隣にいたエリザベスを指差した。
――めんどくさいのでエリザベスを売ろう。
「「「「はあっ!?」」」」
その場にいる全員がはもった。
「? メイドのルリだろお」
私、というか私のメイド服を見ながら不思議そうに小首をかしげた。
「ちっ」
「ちょっと、あんた今、私を売ろうとしたわねえ」
エリザベスが叫ぶ。
「ちょっとした文学的”習字”ってやつよ」
「ルリ、”習字”じゃなくて、”修辞”……よ」
呆れたように言う。
エリザベスのジト目から顔をそらした。
「まあいい」
小柄なメイドがスカートの中から雑誌を取り出した。
表紙には、ホワイトプリムをつけた水着のお姉さん。
「メイド順位一位、ルリ・フローレス・キザクラに、
赤毛のロリ巨乳メイド(←みもふたもない)が〇〇〇いを揺らしながら胸を張った。
ギルドにいた人たちがぞろぞろと裏の運動場に移動する。
「おいおい、うちのギルドの名物、”メイドさん”が決闘だってよ」
「決闘!?、だれとっ」
「メイドさんとだっ」
「?」
「しかし、うちの、”マッドメイド・ルリ”と決闘ねえ……」
ギンッ
「ひうっ」
不適当な表現をする者がいたため威圧しておいた。
ここで、ひとつ。
メイド順位(ランキング)を上げるには二つの手段がある。
一つは、色々と社会に貢献して名を上げること。
ドラゴン退治とかはこれだ。
もう一つは、上位の順位のメイドと直接戦うことだ。
基本的に、ランキング上位者に
私達は、運動場の左右に、約50メートルほど離れて立った。
メイドにとって、”一挙手一刀足”、一瞬で詰められる距離である。
「ふう、名のれっ」
赤毛のメイドを見ながら言う。
「レイカ・ホウゾウイン・ゲッケイカン」
――槍の名手、ホウゾウインッ!!
「「百八あるメイド殺法その0、”メイド
お互いの腹の上に置いた左手の甲に、メイド紋が浮かび上がる。
メイド紋は、そのメイドの内包するメイドオーラ、さらにはメイド魔力(メイドゥ・マァジック・ポォイントゥ←動画とかにあるやたら発音のいいアレ)に比例して大きくなる。
――レイカの、花押は私の半分くらいか
そのとき、
「全てはご主人様のためにっっ」
レイカが高らかにメイド宣言した。
「くっ、……
キュキュルルルウウ
レイカの花押の周りに回転する光が現れる。
位階は、
レイカにご主人様の、”力”が上乗せされた。
レイカの下乳に光の輪が刺さった。
「きいい、彼氏(ご主人様)持ち自慢かああ」
私がキレた。
スカートに手を突っ込む。
「百八あるメイド
「百八あるメイド
レイカがハタキを召喚。
「ハタキ
私が投げたカトラリーをハタキで迎撃される。
「「百八あるメイド
一瞬でお互いが目の前に。
私はなるべく基本姿勢を崩したくないためにフリッカースタイルを好む。
レイカは?
「ビーカブースタイルッ」
自分の両腕を胸にめり込ませながら、あごの下にそろえる。
低い姿勢で飛び込んできた(ダッキング)。
シュパパパパパ
フリッカージャブを連射。
低い身長に低い姿勢。
――まるで岩を叩いてるよう
ダンッ
レイカの片足が地面を鳴らす。
「来るっっ」
低い姿勢から全身のばねを使ったミドルアッパ―。
「百八あるメイド
「がはあっ」
私の右手のアームガードが上に跳ね上げられる。
ヒュン、ヒュン、ヒュン
レイカが上半身で八の字を書き始めた。
「百八あるメイド
「まだよっ」
「百八あるメイド
かすったがさらにレイカが前進。
左右からパンチのラッシュが始まった。
かすった反動を使いバックダッシュ。
ドンドンドン
両腕のガードにレイカの拳が当たる音だ。
「くううううう」
下がりながらなんとかパンチを凌いだ。
強烈なパンチの連打で両腕がだらりと下がる。
「こ、この私にメイド立ち《スタンディング》以外の姿勢を取らせるなんてっ」
「そろそろ終わりにするわっ」
バッ
スカートの中から
「くっ、メイドデンプシーロールを凌がれたっ」
「
レイカが、同じくスカートの中から、
私は振り上げた
レイカは低く構えた
黄金色のメイドオーラを貯めていく。
「「百八あるメイド
「メイドオオオオオオオ、レーザアアアアアアア」
「メイドオオオオオオオ、レーザアアアアアアア」(←アニメ版ランサービーム)
運道場の真ん中で、二本のぶっといメイドビームが激突した。
だが、しばらくした後ランサービームの方が押され始める。
「くっ、あああああ」
地力の差か、レイカが金色の光に吹き飛ばされた。
「ふんっ」
倒れたレイカに近づこうとすると、
「レイカアアアアア」
見目好いショタ少年が、レイカに走り込んでかばうように抱きしめる。
「ご、ご主人さま?」
「もういいんだよ、レイカ」
「でも、ご主人様は男爵をついだばかりで、周りから舐められて」
「もういいんだ」
「だから少しでも役に立とうとメイド順位を上げようと」
「舐めてきた相手はもう、
色々したらしい。
ビクッ
――今、少年がすごい表情をしたよな
「これ以上、僕の最愛のメイドに手を出すなあああ」
ルリの前に立ちふさがる少年。
頬を染めて少年の背中に隠れるレイカ。
精一杯、背を伸ばしてレイカを守るご主人様。
「ぐっはああああああ」
……私は勝った。
……勝ったのか?
……うらやましくなんてない
「う、うらやましくなんてないんだからねええ」
私は、泣きながら逃げた。
パチ
パチパチ
「……なんだこれ」
見学者からまばらな拍手が響いたという。
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