第2話、メイドフリッカージャブ。

「ねえ、ルリ、漫画や小説ってなんで最初にドラゴンを倒すんだろっ」

 

 カウンターの向こうに座った女性が、手に持った漫画をひらひらさせながらに言った。

 ピンク色の髪にギルドの制服。


「知らないわ。 エリザベス、高度に政治的な理由でもあるんじゃない」

 興味がないので適当に答えた。

 今、私はドラゴンの討伐の報告をしに、冒険者ギルドに来ている。

 エリザベスとの付き合いは長い。


の受け取りはギルドの裏で良いわね」


 チャリッ


 ギルド登録証であるドッグタグを彼女に渡す。

 

 ここのギルドも食堂兼酒場が併設されていた。 


「おおっとお⤴」

「メイドさんですよ~」

「げへへへ」

 酒の匂いをぷんぷんさせながら、小中大の三人の男が近づいて来た。

 三人ともモヒカンである。


「ふう」

 私は軽いため息をつきながら、背を伸ばす。

 顎を少し引いて、両手をお腹の前に重ねた。


 メイド殺法さっぽうその0、”メイドスタンディングち”の姿勢をとる。


 百八あるメイド殺法さっぽうの基本姿勢であり、ここからメイド殺法さっぽうが繰り出されるのだ。


「おお。 可愛い」

「美人さんだあ」

「こっちに来てご奉仕しろよお」


 中くらいのモヒカンが腕を伸ばしてくる。


 スッと避けた。


「メイドに触っていいのはご主人様のみっ」


 ご主人様にお手つきされて、やたら待遇の悪い令息や令嬢(ドアマット)を産んで、若死にするまでがテンプレートだ。


「こ、こいつ」

「逃げるんじゃねえよ」

 中くらいのモヒカンが両手でしがみついて来た。


「百八あるメイド殺法さっぽうその26、”メイドフリッカージャブ”ッ」


 ヒュン

 スパアン


 私の右手が鞭のように伸びた。


「う、うわっ」

 パタパタア

 私の拳が、中くらいのモヒカンの鼻先をかすり鼻血を出させる。


「こ、こいつう」

 次は小さいモヒカンだ。


 ヒュヒュヒュヒュ

 パパパパパパアン

 

 私は、右腕を、蛇のように、鞭のようにしならせジャブを連発する。


「う、うわあああ」

 小さいモヒカンに、拳が当たった所が、みみず腫れになった。


「くそっ、どけっ」

 小さいモヒカンを押しのけながら、大きなモヒカンが飛び込んでくる。


「百八あるメイド殺法さっぽうその27、”メイドチョッピングレフト”ッ」

 左手を大きく上から下へ振り下ろすパンチ。


 ドグンッ


 金属バットで古タイヤを叩いたような音を出した。

 大きいモヒカンが白目をむいて倒れる。


「ひいいいい」

「あ、兄貴い」


 小中が大モヒカンを抱えて逃げていった。


「あ~あ、あいつら最近ここに来たんだよ」

「よりにもよって、”ランクS”のルリに絡むなんてな」


 私は、メイドスタンディングちしながらうっすらと口元に笑みを浮かべた。







 




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