悪役令嬢は辞退する
ナーソデ
強い女は好きですか?
まさか交通事故に遭った私が次に目を覚ますと、大好きだった乙女ゲームの世界に登場する悪役令嬢に転生してしまうとは思わなかった。
乙女ゲームの主人公であるヒロインは、メイドの母親が伯爵家の跡取りとの間に子供を授かった事でクビになり、貧しい生活で病にかかった事で命を落とし、娘であるヒロインだけが取り残されるも、数年後に跡取りが作れなかった伯爵が彼女を引き取り英才教育、貴族が通う学園に入学すると、5人いる恋愛候補者達との甘酸っぱい恋愛をする、そんなゲームだ。
そして攻略対象の誰を選んでもヒロインに
どの攻略対象を選んでも、悲惨な人生の幕引きを迎える悪役令嬢になんて未来を知らない本人以外は産まれたと思うわけがない。
「それでも……やるしかないわ」
拳を握って私は誓った、将来夫となる筈だった攻略対象とは最低限の社交的関係にとどめて、一人でも生きていける程強い女になってみせるわ。
(数年後)
「ヒロインが……行方不明ですって?」
私に仕える信頼できる従者の力を使い、ヒロインが母親と2人で過ごしている家を特定して貰うと、原作通りに母親は亡くなっていた様だが、本来なら慎ましい生活をしながらも健気に生活している筈のヒロインがどこにもいないとはどういう事だろうか。
「まさか、もう伯爵家の者に特定された? それとも自らその家の子供だと明かした?」
原作とは違う展開に、ヒロインは私と同じ転生者の可能性を持つ事になった。
もしヒロインが転生者でハーレムエンドや恋愛候補者を積極的に狙うなら、好感度大幅アップに繋がるイベントという嫌がらせを求め、悪役令嬢の私を利用しようと企む筈。
物語が始まる学園入学前から最大限の警戒が必要になるなんてね。
「原作が始まるのは入学式から、まだまだ大丈夫なハズ」
同じ転生者で作中のヒロインになれたからといって、貴方だけがハッピーエンドを迎えるエンディングなんてごめんだわ。
ヒロインが行方不明だと知ってから更に月日が流れ、ついに乙女ゲームの舞台である学園への入学を迎える事になったが、生徒の中にヒロインの姿はなかった。
なんなら伯爵家で隠し子であるヒロインの存在をほのめかす噂もなかったし、もしや彼女はどこかで命を……。
「まさか街一つ滅ぼすドラゴンを一人で倒すなんてなぁ」
「ほんと、凄い人だよ【
……ん? 終焉の女剣士ヒロイン?
「えっ、この世界って乙女ゲームだったんですか?」
「……えぇ」
冒険者への謁見を求めた個人宛の依頼にやって来たヒロインは、私が本来知る姿とは大きくかけ離れていた。
線の細い守ってあげたくなるような可愛らしい容姿をどこにやったのか、筋骨隆々とした肉体に、彼女が倒したのであろうドラゴンの素材をふんだんに使用した鎧を着こなした、身長190cmはあろうその姿。
私と同い年である彼女の原作崩壊した勇ましい姿と、乙女ゲームも少女漫画も殆ど知らない彼女に、原作ファンの私は泣いていいのか恐れればいいのか分からない。
「冒険者ギルドが存在してたので、てっきり異世界転生ものだと勘違いしてました」
「ちなみに、貴方がこの世界のヒロインよ」
「えぇ!……ちなみに恋愛対象の人は、私より強くて性格がいい人はいますか?」
『いるか、そんな男』そんな言葉がでかかったが、口に出る事はなかった。
僅か数年で複数パーティ相手でも倒せないモンスターをソロ討伐できる彼女から見たら、恋愛候補者なんてなよなよしたもやし、肉体はスライム以下、軽く握手しただけで複雑骨折して悲鳴をあげる姿が見える見える。
なんなら親の力に頼らず大金を稼いでいる点も含めて、攻略対象全員、恋愛対象から余裕で外れる。
「で、私はその学園って所に通って恋愛? をしに行った方がいいのでしょうか?」
「あそこは貴族しか通えない学園だから、貴方の血縁者である伯爵家への顔見せと認証、それと最低限の礼儀作法も学ばないと」
「うわぁ」
街一つを一晩で滅ぼすドラゴンを相手に無双した人間の口から出たとは思えない程の嫌悪の声、彼女からこんな声を出させるモンスターなんていないでしょうし、それだけ貴族世界は魔境って事かしら?
「えーと 恋愛とか勉強とか苦手だから、私はこのまま冒険者として生きて行きます、はい」
「えぇ、それがいいわ」
『では、何か困った事があれば依頼してください、お貴族様』そう言ってこの世界のヒロインに転生した彼女は、相棒である大剣を軽々と背負い、再び冒険者として旅立っていくのを黙って見送る事とした。
「ふぅ」
まさかヒロインによる人生妨害を学園で受けるのでは? と危惧していたけど、まさかこんな結末を迎える日が来るとは思わなかった。
でも、これで安心して学園生活を送る事が……
「そういえば、最近やけに攻略者達に群がる
ふむ……どうやら、脅威はヒロインだけではなかったみたいね。
でも、ラスボス対象であるヒロインが不在の学園生活なら、大した障害にはならないでしょう。
「さぁ、頑張りましょうか!」
力ではヒロインには勝てないでしょうけど、私だって強い女になるべく自らを磨いてきた。
私の人生を台無しにするのなら誰だろうと容赦しないわ。
「悪いけど、悪役令嬢は辞退させてもらいましょう」
私だけのハッピーエンドに悪役令嬢の名は相応しくないもの。
完
悪役令嬢は辞退する ナーソデ @Terbium
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