4日目 第3話 美しい迷宮
奈央に案内されながら、花音と綾香はブライダルショップの中へと足を踏み入れた。
店内は、まるで別世界のようだった。シャンデリアが優雅に光を放ち、広々とした空間には純白のドレスがずらりと並んでいる。壁際には繊細なレースや刺繍が施されたドレスが掛けられ、中央にはトルソーに飾られた華やかなウエディングドレスがスポットライトを浴びて輝いていた。
「すごい……」
花音が思わず息をのむ。ここまで華やかな空間に足を踏み入れたのは初めてだったし、こんなにもたくさんのウエディングドレスを目の当たりにするのも初めてだった。
「ね、綾香も初めてでしょ?」
奈央が微笑みながら綾香を見る。
「うん……思ってたよりも、すごく豪華で圧倒されるね。」
綾香も驚いた様子で、並ぶドレスに目を奪われていた。
「ここはね、完全予約制のショップだから、普段はお客様のご希望に沿ってドレスを選ぶの。貸し出し用のドレスもあるし、オーダーメイドのドレスも作れるんだよ。」
奈央が説明しながら、店の奥の方へと歩を進める。
ドレスのコーナーを抜けると、今度はアクセサリーやシューズが並ぶエリアにたどり着いた。ガラスケースの中には、ティアラやネックレス、イヤリングが美しく陳列されている。どれも繊細なデザインで、光を受けてきらきらと輝いていた。
「ねえ、これとかすごくない?」
綾香がケースの中のティアラを指さす。
「本物の宝石……?」
花音が恐る恐る尋ねると、奈央は笑って答えた。
「本物もあるし、ジルコニアとかクリスタルを使ったものもあるよ。でも、見た目はほとんど変わらないでしょ?」
二人が驚きながら見ていると、奈央がふと時計を確認し、「ちょっとスタッフと打ち合わせしてくるね」と言ってその場を離れた。
残された花音と綾香は、目の前の豪華なドレスやアクセサリーに見入ったまま、ぽつぽつと話し始める。
「こんな場所に来ることになるなんて、思ってもみなかったよ。」
花音が苦笑しながら言う。
「私もだよ。でも、ここまで来たからには、ちゃんとやらなきゃね。」
そんな風に話しているうちに、再び奈央が戻ってきた。
「じゃあ、綾香、こっちの部屋に行こうか。」
そう言って、奈央は綾香を別室へと案内しようとする。
花音はソファに座り、スマホを取り出して何気なく画面を見つめる。時々、綾香のウエディングドレス姿を想像してみたりして、少しだけ心が躍る。だが、それ以外には何もすることがなく、ただぼんやりと時間が過ぎるのを待っている。
しばらくして、奈央が戻ってきた。
「花音ちゃん、お待たせ。」
奈央の声がして、花音は顔を上げる。
「今度は花音ちゃん、こっち来て。」
「……え?」
花音は驚いて、少し戸惑った様子で奈央を見つめる。
「え、なんですか?」
「いいから、こっち。」
奈央が少し微笑みながら、花音を誘う。
花音は特に嫌な予感を感じることなく、何気なく立ち上がり、奈央に従って歩き始めた。直感的に、綾香の着替えが終わったのだろうと考えながら、ふとその姿を想像してみる——
歩みを進めるごとに、花音は心の中で少しだけ緊張感が高まっているのを感じていた。
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