2日目 第5話 不意打ちのドキドキ
梨奈と華子が「じゃあ、私たちはお風呂行ってくるね」と言い残し、部屋を後にすると、花音と綾香は洗濯物を持って洗濯室へ向かった。
洗濯室は寮の一角にあり、並んだ洗濯機の音が静かに響いている。夜の時間帯だからか、他に誰もいない。ほんのり柔軟剤の香りが漂う中、綾香は慣れた手つきで洗濯機の蓋を開け、花音にも手伝うように促した。
「まず、色物と白いものは分けるの。下着はネットに入れると傷みにくいよ。」
そう言いながら、綾香は洗濯かごの中から自分の服を取り出し、テキパキと仕分けしていく。花音も見よう見まねで手伝いながら、女子の洗濯方法を学んでいった。
「ネットなんて使うんですね…」
「そうそう。あとは、素材によって洗い方を変えたり、こういう柔らかい服は手洗いしたりするの。」
綾香が優しく説明するたび、花音は「へぇ…」と感心しながら頷く。洗濯なんて今まで深く考えたことがなかったが、女子の衣類にはいろいろ気をつけるポイントがあるらしい。
花音は持ってきた自分の衣類も仕分けしながら、綾香の動きを横目で追っていた。綾香は真剣な表情で作業している。こんな風にしっかりしているところも、彼女らしい。
しかし、その時だった。
何気なく視線を落とした先で、綾香の洗濯物の中に、見慣れない――いや、見慣れるはずのないものが混ざっているのを目にした。
――それは、レースのあしらわれた可愛らしい下着。
一瞬、時間が止まったような気がした。
「わ、わあ…!」
思わず声が漏れた瞬間、綾香もそれに気づき、慌てて手を伸ばす。
「あ、あれ…?」
咄嗟に洗濯物を掴み、後ろ手で隠す綾香。その仕草がやけに可愛く見えてしまい、花音の心臓が跳ね上がった。
「ご、ごめんなさい! べ、別に見ようとしたわけじゃなくて…!」
「い、いいの! 気にしないで…!」
綾香も顔を赤くしながらそっぽを向き、しばらく気まずい沈黙が流れた。
――なんだろう、この雰囲気。
花音は視線のやり場に困り、落ち着かせるために深呼吸をする。綾香も同じく何かを振り払うように、小さく咳払いをした。
「そ、そういえば…!」
綾香が急に話題を変えるように、少し強引に口を開いた。
「明日の予定、どうしようか?」
「え?」
「せっかくだし、体験学習らしいことしたほうがいいかなって思って。体育館で体を動かすのもいいかも。たとえば、体操とか…?」
「た、体操…?」
花音は思わず綾香の顔を見返した。
――体操。体育館。そして、レオタード。
頭の中で、さっきのやり取りがよみがえる。梨奈が冗談で取り出してきた、綾香のレオタード。そして、それを華子がノリノリで着せようとしてきたこと。
まさか、明日は本当に着ることになるのでは…!?
急に不安になり、花音はそわそわと綾香の顔をうかがった。
綾香はそんな花音の反応を見て、きょとんとした表情をした後、ふと何かを察したようにクスッと笑った。
「もしかして、レオタード着せられると思った?」
「えっ!? ち、違いますよ!!」
花音は勢いよく首を振ったが、動揺しているのがバレバレだった。綾香はおかしそうに微笑んでから、少し茶目っ気を込めて言った。
「…着てみたいの?」
「えぇぇっ!?」
思わず大きな声を出してしまい、花音は顔を真っ赤にして両手を振った。
「そ、そんなわけないです!! むしろ、着たくないです! 似合わないし、恥ずかしいし…!」
「ふふっ、冗談だよ。でも、せっかくだし、ちょっと体験してみるのも面白いかもね。」
「えっ…まさか…」
綾香の言葉に、花音は冷や汗をかく。だが、綾香は悪戯っぽく笑った後、「安心して、無理に着せたりしないから」と優しく言った。
ホッと胸をなでおろす花音。しかし、内心ではまだ警戒を解いていなかった。
(でも、綾香先輩ってたまに天然で大胆なこと言うし…明日本当に着ることになったらどうしよう…)
そんな不安を抱えつつも、二人は洗濯作業に戻ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます