風の音、水の音
入沙界南兎《いさかなんと》
風の音、水の音
痛む腹を抑えながら。
腹から血が流れ出す血で
かなりの深手だと見て取れる。
追っ手には致命傷を与えたので、追いかけては来ないだろう。
しかし、清志郎も深手を負い、山に逃げ込んできたのだ。
やがて小さな川に出て、ついに力尽き清志郎は川の中に倒れ込む。
冷たいはずの川の水すら既に感じなくなっていた。
ただ川の流れる音と風の音だけが清志郎の耳に聞こえるのみだった。
「・・・ですか?・・・かりして・・・ださい」
どこか遠くで誰かが話し掛けている、それが清志郎の最後の記憶。
清志郎が目覚めたのは、見知らぬ
「ここは?」
身体中が痛くて首すら満足に動かせない。
なんとか動かせる首を回し、後は目だけで辺りを見回す。
庵は大して広くなく真ん中に囲炉裏があり、清志郎はその横に寝かされていた。
入り口の横に小さな
木々を揺らす風の音と、近くの川の水の流れる音が耳に心地良い。
庵の端の方に小さな
典型的な田舎の
「俺にまだ生きろと言うことか?」
清志郎はどうしてこうなったか思い返す。
清志郎は地方の貧乏侍の三男として生まれた。
禄は低く、農民のように畑仕事をしないと、とても生活は出来ない程の貧しい家だった。
三男なので余程のことが無い限り家督を継ぐこともないが、継いだところで貧乏からは逃げ出すことは出来ない。
いっそ養子にと剣の道に励み、道場では一目を置かれる程の腕前になり、道場主の娘と深い仲となり幸せの絶頂となる。
それが壊れた、娘に上級藩士からの縁談が持ち上がり、慌てる二人。
追い詰められた二人は駆け落ちをする約束をすると一旦分かれ、清志郎が約束の場所に行くと待っていたのは有力藩士の手の物だった。
清志郎は待ち受けていた手の物を何人か切り伏せると、そのまま脱藩し追われる身となったのだ。
追っ手に偶然山の
「あっ、目が覚めたんですね」
明け放れた入り口に娘が立っており、その娘が素っ頓狂な声を上げたのだ。
娘はパタパタと清志郎の寝かされている板の間に上がってくると、顔の横に座って覗き込んでくる。
美人ではないが愛嬌のある顔だった。
「お侍様、大丈夫ですか?」
「体中痛くて動けぬが、なんとか生きている」
「そうですか、まだ当分動けそうもないのですね」
「お前が助けてくれたのか?」
「はい、重くてここまで運ぶの大変でした」
清志郎は大柄の身体の上に鍛えているので、かなり体格はいい。
娘の方は背は低くはないが、着物から覗く手足を見ると鍛えているというのにはほど遠いのが判る。
清志郎をここまで運ぶのはさぞ大変だったろう。
「娘、お前一人か?」
「ええ、一人でここに住んでるいます」
「そうか、お前一人で俺をここまで・・・」
「男の方って重いのですね」
娘は屈託なく笑う。
「娘、名をなんと申す」
「清と言います」
「俺は清志郎だ」
清はしばらく清志郎の名前を何度も呟くと、
「同じ、清同士ですね」
ツボに入ったのか、清は笑い転げる。
そんな清を清志郎も微笑ましい目で見た。
それから清は動けぬ清志郎を献身的に世話をしてくれた。
日々過ごす内に、献身的な清に対して清志郎は特別な感情を
夕げを済ませた後、清はいつものように着物を脱いで一旦全裸になると、寝間着に着替える。
別に珍しい光景ではない。
田舎では普通の事なのだ。
風呂屋があるわけでもなければ、家に風呂など余程裕福でもなければ夢の又、夢の話なのだ。
故に老若男女問わず、軒先で行水が当たり前だった。
清志郎の姉も妹も、当たり前のように庭先で行水をしていた。
田舎では女の裸など、見慣れた風景でしかない。
しかし、今は違う。
清の事を意識するようになってからその裸を見る事が躊躇われたのだ。
清志郎は見ないように反対を向く。
「清志郎様、どうして向こうを向くの?」
清が不思議そうに聞いてきた。
ついこの前まで、着替えをしていても平然としていたのだから当然だろう。
「ちょっとこっちに寝返りを打ちたくなっただけだ」
苦し言い訳をしたが、
「ふ~ん、そうなんだですね」
清はそれだけ言うと、囲炉裏を挟んだ向こう側の寝床に潜り込む。
「清志郎様おやすみなさい」
そう言った後、いくらもかからないうちに寝息を立てて寝てしまう。
「なんとも変わった娘だな」
清は身動き出来ない清志郎の事を甲斐甲斐しく世話をしてくれていた。
傷の手当てから下の面倒まで嫌な顔ひとつせず。
他にも傷口に塗る為の薬草取りから食事の仕度まで、それこそコマネズミのように動き回る日々を送っていたのだ。
「疲れぬか?」
と聞いた事もあったが、
「うふふ、身体を動かすのは好きだから」
笑って答える。
清の献身的な看病の甲斐もあり、清志郎はなんとか日常生活が出来るようにまで回復することが出来た。
「すっかり良くなりましたね」
清が清志郎の着替えを手伝いながら嬉しそうに笑う。
「これも清のお陰だ」
清志郎は清を抱き寄せ、清も清志郎の身体に身を任せる。
そのころには、二人は深い男女の仲になっていたのだ。
「俺が良くなったら、一緒に山から下りないか?」
その言葉に清は困ったような顔をしてから、下を向いて、
「ごめんなさい、出来ない」
「どうしてだ、どうして出来ないんだ」
清志郎は清の肩を掴み、清の顔を自分の方に向けようとした。
この話は、今までに何度も話したがその度に清は困った顔をして逃げていたのだ。
逃げられないように肩を掴まれた清は、意を決して、
「清志郎様、清は
唐突に聞かれて、
「十六だろ、この前そう聞いたぞ」
清に聞いた時そう答えたのだ。
「それは半分嘘で、半分本当です」
「半分嘘で半分本当とはどういうことだ?」
清は口を開き駆けて一瞬迷ってから、
「清が十六になる前の年に、太閤様の刀狩りがありました」
「太閤様って、豊臣秀吉の事か・・・の刀狩り?豊臣家が滅んだのなんて何十年前の話じゃないか」
刀狩りは豊臣秀吉が農民から力を奪う為に行った事で、既に徳川の治世になってから三〇年以上経っていた。
清志郎が知らないのも無理はない。
「清、お前は豊臣秀吉の時代から生きているというのか?」
清志郎の問いに、清は首を横に振る。
「生きてないです、清は・・・清はもう死んでいるのですから」
衝撃的な話だが、清志郎は信じなかった。
当然だろう、生きている清は目の前にいるのだから。
「違うのです、この身体は
泣きそうな顔で清は清志郎の顔を見上げた。
「どういう事だ、借り物の身体とか龍神様とか」
「清の村で日照りが続いて、龍神様の人身御供に清が選ばれて・・・」
龍神は水の使いとされ清志郎の家から近くの村でも信仰されていた。
日照りが続くと娘を人身御供にするという話は実際にあったようで、清志郎の父が随分怒っていた事を覚えていた。
「バカな、そんなバカな事があるか。清はここに居るではないか、死んでなんていないではないか」
信じようとしない清志郎に、
「来て」
と手を引いた。
「どこへ行くのだ、そんなことよりも・・・」
抗おうとしたが、清の力は意外と強く、そのまま引きずられるように連れて行かれた。
清は庵の裏側に回ると上に向かって歩く。
途中深い藪があり、その藪をかき分けて進むと洞窟の前に出た。
清は迷わず、その洞窟の中へ進む。
洞窟の中には小川が流れており、その小川から僅かに光を放っている。
「み、水が光っている」
驚く清志郎。
「これは龍神様の御水だから」
説明する清。
「龍神様の・・・?」
清志郎は半信半疑に答える。
最初暗かった洞窟も、目が慣れ足下を流れる川からの光だけでも充分見えるようになってきた。
よく見ると洞窟は強い力で一気に打ち抜かれたかのように見える。
自然に出来た洞窟にしては妙に真っ直ぐすぎるのだ。
「これも龍神様の力?・・・まさかな」
清志郎は自問自答して心の中で笑う。
「着きました」
清の声に顔を上げると、前の方がかなり明るくなっているのが判る。
そのまま清に連れて行かれると、大きな泉に出る。
「龍神様の泉です」
泉からの明かりが全体をあまねく照らし、その幻想的な光景に清志郎は心を奪われて辺りを見回した。
泉の周りはざるをひっくり返したように球状に削られている。
表面はむき出しの岩だったが、泉からの光で岩の表面がキラキラ輝き幻想さを更に深めていた。
清志郎達が出てきた洞窟の反対側に祠が見える。
「あれは?」
清志郎が聞くと、
「あれは龍神様の祠の・・・裏口」
つまり、あの先に本物の祠があると言う事だ。
「清志郎様、着物を脱いで」
と言いつつ、清は着物を脱ぎ始める。
「なんだ突然、どうしてだ」
清志郎は躊躇ったが、清はさっさと着物を脱いでしまい既に全裸だった。
「早く、早く」
清に急かされて慌てて着物を脱ぎ、裸になる清志郎。
「じゃあ、いきます」
清志郎の手を握るといきなり清は泉に飛び込んだ。
「うわぁ」
突然の事で、清志郎もそのまま泉に引きずり込まれる。
「な、何をするんだ」
水から顔を出した清志郎が怒鳴る。
「大丈夫、泉の中は苦しくないですから」
清は言うなり潜り始める。
「ちょ・・・き、清」
一瞬慌てふためいたが、清志郎も清の後を追って泉の中を潜った。
「本当に息が苦しくない」
水に潜っている感触はあるのに、地上にいるがの如く普通に呼吸が出来たのだ。
それならばと、
「き、ぐぅえほげほ」
声を出そうとしてむせた。
声は出せないようだ。
息は苦しくないのに、声は出せない事を理不尽と思いながら清志郎は清の後に続く。
最初揺らめいてはっきりとしなかった
水底は地上部と違ってかなり起伏があり、自然に出来たという感じだ。
その水底に何かあるのが見えた。
はっきりしなかった形が、近づくに従いはっきりとした形になっていく。
人だった。
一糸まとわぬ女の身体が、水底に沈んでいるのだ。
そしてその顔は清だった。
「こ」
声を出しかけて慌てて口を塞ぐ清志郎。
清は水底に沈む自分に手を合わせると、水上を目指して上がり始める。
清志郎も後に続いた。
二人とも水面に顔を出すと、
「あれが本当の清、この身体は龍神様が清の事を不憫に思って貸してくれたのです」
泉に人身御供として沈められた清の魂を、龍神が作った身体に移したのだ。
「あの身体はもう目覚めぬのか」
「はい」
さみしそうな顔をする清。
「でも、息が出来たぞ。息が出来る泉で何故死ぬのだ」
「それは龍神様が清が本当の身体を見に来てもいいように、水を苦しくないように変えてくれたからです」
それも龍神の神通力だった、
水から上がり、着物を着ると清志郎はうなだれたまま清に手を引かれて洞窟を出る。
「このままじゃダメだ、このままじゃダメだ」
口の中でブツブツ言いながら。
そうこうしている内に庵に着く。
「清志郎様、大丈夫ですか?」
泉から上がってから清志郎の様子が変なので、心配になって清志郎の顔を覗き込む清。
「このままじゃダメなんだ!」
突然、大声を上げた立ち上がる清志郎。
驚いて清は尻餅をつく。
「き、清志郎様?」
清志郎は尻餅をついて見上げている清を一瞥すると、しゃがみ込んでそのまま清を抱き上げた。
唐突なことで驚くが、そのまま清は身を委ねる。
清志郎は清を抱き上げたまま庵を出ると、道を下り始めた。
「清志郎様、どこへ行くの?」
清の問いに、
「山を下りる」
きっぱりと答える清志郎。
「だめ、だめ・・・清は山から下りられない」
清は清志郎の腕の中で抵抗したが、清志郎にしっかり抱え込まれていて逃げることが出来なかった。
嫌がる清を抱えたまま清志郎は山を下ったが、唐突に前から風が吹いてきた。
その風は尋常な強さではなく、油断すると身体事吹き飛ばされそうになる程に強烈な風だったのだ。
「くそっ、龍神の仕業か」
清志郎は歯を食いしばり、清をしっかり抱えて踏ん張る。
一歩、また一歩とじりじりと前へ進む。
突然に風の向きが変わり、後ろから吹いてきた。
清志郎は思わず前へつんのめり、体勢を崩し清を離してしまう。
それを待っていたかのように更に強烈な風が清志郎を吹き飛ばした。
「ここは?」
清志郎が目覚めたのは日がだいぶ傾いてからだった。
「そうか龍神の風で飛ばされて・・・清、清はどこだ!」
周りを探したが清の姿はどこにもない。
「そうか、あの時・・・」
後ろからの風でよろけた時、清を離してしまったことを思い出す。
「まだ上か」
清志郎は山を駆け上がった。
「な、なんだ、先に進めぬぞ」
見えない壁でもあるかのように、在る場所に来た途端、先に一歩も進めなくなってしまったのだ。
「これも龍神の力か」
清志郎は見えない壁を力の限り叩いたが、びくともしない。
「清!清!俺はここに居る、きよぉぉぉぉぉ!」
力の限り清の名を呼んだが、返事はなかった。
清は見えない壁の直ぐ反対側で清志郎を見ていた。
「清志郎様、清志郎様、清はここです、ここに居ます」
清は清志郎に抱きつこうとしたが見えない壁に阻まれて出来なかった。
「清志郎様、清志郎さまぁぁぁぁぁ」
清の
清志郎は数日の間、どこからか入れないか見えない壁の周り調べて回ったが、どこにも入る隙間はなかった。
「どうしたものか」
清志郎は考えあぐねて、結局、目覚めた場所に戻ってきてしまう。
そこへ小屋を建てる。
清のいるこの場から離れられなかったのだ。
食べる物と水は、山から手に入ったので最低限の生活には困らなかったのだが、清志郎は暖かかくなると里に下り、里の手伝いをしては日銭を得るようになっていた。
清志郎は僅かな金を貯めては、反物やかんざしなどを買っていたのだ。
今日も貯めた金で反物を買って帰ってきた所だ。
買ってきた反物を持って見えない壁まで来ると、反物を壁に押しつけた。
最初は抵抗があったが、唐突に反物は壁をすり抜け向こう側へ消えてしまう。
壁の向こう側へ入ったのだ。
小屋を建てた後も、なんとか壁に入れないか試していた。
何をやっても壁を越えることは出来ず、手にした山芋を怒りにまかせて壁に叩き付けたのだったが、山芋は潰れる事も無く壁に張り付いたように動かなかったが、突然吸い込まれるように消えて無くなったのだ。
「物なら入れる?」
それから色々試みて、幾つか決まりがあるのも判った。
壁の外にはじき出されてから数日後、清志郎の刀が壁の外に置かれていた。
刀などもう必要なくなったので刀を売り払い、いつか渡せる時が来たらと清の為にかんざしを買ったのだ。
その事を思い出し、小屋の中から持ってくると壁に押しつけてみたがどうやってもかんざしを壁を通すことが出来なかった。
山で手に入れたキノコや肉は壁を通せた、最初は山で取れた物だけ壁を通れると思っていたが、あれこれ試す内に清志郎が汗水垂らして手に入れた素朴な物なら壁を通す事が出来るのも判った。
清志郎が働いて手に入れた物でも、華美な物は壁を通すことは出来なかった。
今日買ってきた反物も、ありふれた柄のごく普通の反物だ。
反物を壁の向こうに送って数日後、壁の外に着物が畳んで置かれていた。
清志郎はそれを手に取ると小屋に戻ると、その着物に着替える。
あつらえたように清志郎の身体にピッタリだ。
柄は先日壁の向こう送った反物と同じ、つまり送られた反物で清が清志郎の為に縫った着物なのだった。
「清」
清志郎は着物を抱きしめるように腕を胸で組むとしばしむせび泣く。
そんな会えぬ逢瀬が数十年続いた。
「はぁはぁはぁ」
清志郎は死にかけていた。
龍神の加護なのか、ここに来てから病気一つしないで過ごせていたが、いよいよ天寿が尽きようとしていたのだ。
体調が悪くなってから見えぬ壁際に身を寄せていた。
壁際にギリギリまで身を寄せると何らかの加護が発動するのか、雨風どころか地面や周りの暑さ寒さからも切り離され、快適に過ごせるからだ。
それよりもここに居ると清が粥を差し入れた時に、僅かに指に触れることが出来た。
指先が触れあうだけだったが、半日指を触れあわせたまま過ごすことも。
僅かな触れ合いだった、が清志郎と清にとっては至福の時だったのだ。
「ああ、このまま時が止まってくれれば」
と何度思ったことか。
それも終わりを告げようとしていた。
「き、清・・・」
その一言の後、清志郎は天寿を使い果たした。
「清志郎さまぁぁぁぁぁ」
それと同時に見えぬ壁が消え、清は清志郎の身体にしがみつく。
「清志郎様、清志郎様、目を開けて下さい清志郎様。目を開けて清を見て下さい清志郎様。清はここです、ここに居ます」
動かぬ清志郎にすがりつき、清は清志郎の身体を揺さぶる。
しかし、清志郎は二度目を開けることはなかった。
涙が涸れるまで泣いた後、意を決して清は清志郎の身体を抱え上げる。
「軽い」
初めて会った時、川から引き上げて庵まで引きずっていくまで重くて大変だった。
それに比べて今の清志郎の身体は、清でもなんとか抱えられる程に軽くなっていたのだ。
「清志郎様、今、清の所へ連れて行きますから」
清は清志郎の身体を抱えたまま、庵の裏の洞窟に入り泉まで来る。
泉の横に清志郎の亡骸を横たえると着ていた着物を脱がす。
「清志郎様、今、綺麗にしますから」
泉で手ぬぐいを濡らすと清は清志郎の亡骸を拭いた。
真っ白になってしまった髪、深くしわの刻まれた顔、節くれが目だつ手足、そんな身体を清は丁寧に拭く。
「綺麗になりました、清志郎様」
清は着物を脱ぎ裸になると、再び清志郎の亡骸を抱え上げた。
「さあ行きましょう清志郎様」
泉の中に飛び込む。
清志郎の亡骸を抱えたまま清は水底を目指す。
水底まに着くと清は自分の亡骸の横に清志郎の亡骸を並べた。
「これでずっと一緒です」
手を合わせる清。
すると清志郎の亡骸が見る間に若返っていき、出会った時と同じ若さまで戻ったではないか。
「こ、これは・・・もしかして」
清は淡い期待を胸に水面を目指し、水面に出ると辺りを見回した。
人影が目に入る。
清は急いで岸に上がると人影の元に走る。
そこには会った時と同じ頃の姿をした清志郎が立っていたのだ。
「清志郎さまぁぁぁぁぁぁ」
名前を呼びながら清は清志郎にしがみつく。
「龍神様がこの身体をお与え下さったのだ」
清志郎が天寿を全うすることで、龍神が清志郎の魂に仮初めの身体を与えてくれたのだった。
「清」
清志郎は清の髪を優しく撫でる。
「夢のようです、またお会い出来るなんて」
「夢ならいつまでも覚めないで欲しいものだ」
「そうですね、これが夢ならいつまでも覚めないでいて欲しいです」
二人はしっかりと抱き合う。
祝福するように、風の音と水の音が二人を包み込む。
>この作品を、故石ノ森章太郎先生の「竜神沼」に捧げます。
>なろうに投稿した作品に加筆修正しました。
(Copyright2024-©
風の音、水の音 入沙界南兎《いさかなんと》 @isakananto
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