金欠冒険者と用心棒 ~こちら駆け出し冒険者ですが、浜辺で記憶喪失の男の子を拾いました~
ビーデシオン
第一章
第零話
0 夢みたいな光景
ああ……本当に、夢かなにかじゃないでしょうか。
差し伸べられた手を見ていると、そんな風に思わずにはいられません。
何せ私、つい先日までずっと一人で……買い出しだって一人で街を駆け回って、安くなった見切り品を買いあさる日々だったのですから。
「カヤさん。急ごう。もう日が暮れそうだ」
今こんな風に、夕暮れの陽光を受けながら、逆光の中に私を連れていってくれる人が現れるなんて、思いもしていなかったのですから。
「肉屋が終わったら次は八百屋だ。あそこもそろそろ見切り品が並び始める」
底なしに楽しげな良い声で、そうやって手を引っ張られていると、えも知れぬ罪悪感に襲われてしまいます。
いくら私が駆け出し冒険者だからって、彼にまで節約術を教えるのはやりすぎだったのではないでしょうか……?
「カヤさん? なにか、まずかっただろうか?」
影の中でもわかってしまう。
彼が子犬のようにしょぼくれてしまったことが。
この日々の中で見慣れた顔が、私の顔色を伺ってくれていることが。
底なしに純粋な彼の心が、真っ直ぐと私に向いていることが。
「……いえ、なんでもありません。ただ……」
「……ただ?」
思えば、悩む必要も無かったのかもしれません。
だって私たち、今更気にしたところでどうせ――
「あなたと一緒に暮らせているのが、ただただ幸せだなって思って」
私がそんな風に微笑みかけて見せたら、彼は氷のように固まってしまいました。
ええ、流石にわかっています。今のは私が悪かったのでしょう。
それでも別に今更、謝ったりするつもりはありません。
「行きましょう。もうそろそろセールが終わっちゃいます」
だから私はただ彼の手を握って、そのまま強く引きました。
今日の夕飯は、一体何になるでしょうか?
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