第37話 資金源:清酒

 俺、丹羽長秀殿、藤吉郞の三人組で、三河の松平家と同盟の交渉をすることになった。

 とはいえ、いきなり松平家に『どうッスか?』と訪問しても斬られるだけだ。

 交渉の前段階として、松平家に渡りを付ける必要がある。


 渡りを付ける――つまり最初に『織田家が同盟を打診しているがどうだ?』と松平家に話を持っていく役は、水野信元殿が引き受けてくれた。


 水野信元殿は尾張の知多ちた郡――愛知県の知多半島、名古屋の南――に領地を持つ有力国人で、松平家当主松平元康殿の叔父だ。


 桶狭間の戦で砦にこもっていた松平元康に撤退を説いたのは水野信元殿。

 同盟打診の下地はある。


 俺たちが三河へ出発するまで、まだ時間がある。

 俺はその間に資金繰りを考えることにした。


 浅見隊は八人まで減ってしまった。

 また採用して鍛えて飯を食わせて槍や防具を用意して……。

 金が掛かる……。


 いつになるかはわからないが、殿から領地をいただける。

 領地をもらってもすぐに税収があるわけじゃない。

 最初は持ち出しだ。


 そう考えると、殿から褒美にもらった銭には手を付けられない。


 アロハシャツとパーカーは、ボチボチ売れているが、もっと売れそうな商品を投入したい。

 そこで俺は駿河屋喜兵衛と組んで清酒を開発することにした。


 驚いたのだが、戦国時代のお酒は濁り酒なのだ。

 独特の臭いがして、俺は苦手だ。


 清酒の造り方は濁り酒に灰を入れる。

 灰が濁った成分を沈殿させ、上澄みをすくえば清酒が出来る……はずである。

 この知識はマンガの知識なので、どこまで本当かわからない。


 駿河屋喜兵衛には大雑把な原理を教え、『どんな灰にするのか?』、『灰の量はどれくらいか?』は、試行錯誤してもらうことにした。


 駿河屋喜兵衛に教えてから十日で『試作品が出来た!』と連絡が来た。

 早速、又左こと前田利家を連れて新開発の清酒の試飲だ。


「浅見様。お待ちしておりました」


 駿河屋に着くと店主の喜兵衛が迎えてくれた。

 書院造りの部屋に案内され、俺、又左、喜兵衛が座る。

 部屋には既に酒の用意がされていた。


「浅見様。こちらが出来上がった清酒でございます。どうぞお試し下さい」


 漆器の盃に清酒が注がれる。

 清酒は透明で杯の内側が朱色だと分かる。


 俺は透明度に満足しうなずく。


「うむ! 濁りがない! 目で見ても楽しめる!」


 又左が驚いて声を上げた。


「凄いな! こんな酒を造っていたのか!」


 二人で酒に口を付ける。

 濁り酒の嫌な臭いは消え、華やかな香りがする。

 口にすると爽やかな舌触りで、スッと飲める。

 これなら俺も大丈夫だ。


「うん! 美味い!」


「爽太! この酒は凄いな! こんな美味い酒は初めて飲んだぞ!」


 又左が興奮している。

 クイッと杯の清酒を飲み干すと、プハーと息を吐いた。


「又左。どうかな? 売れそうか?」


「ああ! 売れるだろう! なあ、おかわりはないか?」


「スマンなあくまで試しだから、これで終わりだ」


「そんな!」


 又左が悲しげに眉を下げた。


 俺と喜兵衛は又左の様子を見て笑った。


「喜兵衛。今度、三河の松平家に行くことになった。土産に清酒を持って行くので準備しておいてくれ」


「かしこまりました。売る分とは別に用意いたします」


 松平家との交渉の手土産に新しい酒は丁度良い。

 尾張の先進性をアピールしよう。


 こうして新しい資金源『清酒』が手に入った。


 殿に献上したが、殿は酒が苦手であまり喜ばれなかった。

 だが、お濃の方様がいける口で、『お濃が大層喜んでいた! 大儀!』と、後日お褒めの言葉をいただいた。


 いやあ、良かった良かった!

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