第16話 又左と信長
俺たち浅見隊は、清洲城で池田恒興殿に野盗四人を引き渡した。
「浅見殿。ご苦労様でした。今、殿がいらっしゃいます」
「えっ!?」
不味い……!
出仕停止中の又左がいる!
「いや! 池田殿! 野盗ごときで殿をわざわざ呼ぶほどでは――」
「いやいや、殿からお褒めの言葉と褒美を受け取りなされ。ほれ、もういらした」
「あっ……」
ドスドスと屋敷の奥から足音が聞こえてきた。
殿だ!
ヤバイ!
俺は振り向いて、又左に隠れろと手で合図をしたが遅かった。
「爽太! 野盗を捕らえたそうだな!」
殿がご登場である。
又左は逃げ遅れた。
俺はかしこまって返事をする。
「はっ! 四人の野盗を捕えました。行商人を襲っていた不届き者です」
「うむ! ようやった! 褒美の銭だ!」
殿が俺にポーンと銭束を二束放った。
受け取るとズシリと重い。
「そこに控えておるのが、爽太の足軽どもか?」
「左様です。浅見隊の面々です」
「うむ! 大儀である! 面を上げい! ん?」
殿は俺の後ろに控える浅見隊の隊員にも声を掛けてくれた。
だが、殿の動きが止まった。
ヤバイ……。
殿が又左に気が付いた!
殿の声に冷気が漂う。
「爽太」
「はっ!」
「あやつは何じゃ?」
「あやつとは?」
「そこの長い槍を持った大男じゃ」
「はて、そのような者が?」
「おるじゃろ!」
殿は今にも爆発しそうだ。
仕方がない。
ここは突破する!
俺は大げさな身振り手振りで又左を呼んだ。
「おお! おりました! 殿! この者は、それがしの弟で浅見又左衛門と申します。浅見隊の指南役です」
「浅見又左衛門です」
「「は!?」」
殿と池田恒興殿は、あっけに取られた。
そりゃそうだ。
出仕停止中の前田利家のはずが、俺の弟浅見又左衛門なのだ。
池田殿が眉根を寄せて困惑している。
「いや……、お主は……前田殿であろう?」
池田殿の問いに、俺はすかさず強弁する。
「池田殿! 違いますぞ! この者は浅見又左衛門でござる!」
「浅見又左衛門です」
又左は直立不動で『浅見又左衛門』と名前を繰り返す。
バレた時の打ち合わせ通りである。
池田殿は頭痛がするのか、頭を抑えている。
「あの……浅見殿……無理がござらぬか? 大男で派手な槍を持つかぶき者といえば、前田利家以外にいないであろう?」
「いえ! それがしの弟! 浅見又左衛門です! それがしも体が大きいですから、弟はもっと体が大きいのです!」
「浅見又左衛門です」
「ほれ! この通り! 浅見又左衛門と名乗っております!」
「ええと……」
真面目な池田殿は、どうしたものかと腕を組んで考え出した。
ここぞとばかりに俺は強弁する。
「池田殿。ここに前田などという者はおりませぬ。いるのは浅見又左衛門です! 日夜浅見隊の指導に汗を流し、それがしに大将としての振る舞いを教えてくれる頼もしき男です! 浅見又左衛門! 浅見又左衛門! 浅見又左衛門をよろしくお願いします!」
最後は選挙のウグイス嬢のように、必死で偽名を連呼した。
又左は殿への忠誠心がある。
織田家の未来のために必要な人材だ。
腐らせてたまるものか!
「ククク……ハハハハ……ワハハハ!」
俺が池田殿に一歩も引かない様子を見て、殿が笑い出した。
「そうか……浅見又左衛門であるか……。精進せよ!」
殿はドスドスと大きな足音を鳴らして去って行った。
「ふう、やれやれ。浅見殿は大胆ですな。では、浅見又左衛門殿、これにてご免」
池田殿はフッと笑って殿を追った。
殿と池田殿がいなくなって、俺と又左はへなへなと地面に腰を下ろした。
「爽太。ありがとう! どうやら浅見又左衛門としてなら大丈夫みたいだ」
「ああ、良かった!」
「しかし……、自分で言うのも何だが、殿もよく許してくれたよな……」
「ああ、茶坊主を斬った件だな?」
公式には、茶坊主を斬った前田利家は出仕停止中だ。
だが、殿は浅見又左衛門として前田利家が出仕するのを受け入れてくれた。
俺と又左の様子が面白かったのか、それとも何か他に理由があるのかは不明だ。
とにかく良かった。
「そうそう! いやあ、その茶坊主って殿の遠い親戚なんだわ」
「先に言えよー!」
殿の遠い親戚を斬るとは……。
危うくこちらまで巻き込まれるところだった。
二度と又左は助けん!
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