第3話
一週間後。旭は本屋に来ていた。漫画が並ぶ本棚の周りをブラブラ歩いていると、外の広場から歌声が聞こえてきた。
「あ」
外を覗くと、また人だかりができている。
(……すげえ、先週と全然違うじゃん)
先週はバラードを歌っていたはずだ。だが、今日歌っているのはポップなアイドルソング。歌い方も変わっていて、全く違う歌声に聞こえる。
「――ボウズ、花音ちゃんの歌聴くの初めてか?」
と、本屋の初老の店主がやってきた。
「あ、先週に一回……」
「そうかそうか。花音ちゃんはな、一ヶ月くらい前から日曜日のこの時間、歌ってんだよ。まだ高校一年生だって言うのに、まあ聴いての通り上手いからな、すっかり人気者だよ」
店主がハハッと笑いながら店の奥に戻っていく。
(……高校一年生? この辺じゃ見ない顔だな)
高校の同級生に「花音」なんて女子はいなかった気がする。この商店街は、旭が通っていた小中学校の学区内だ。ここに来るのなら、近所に住んでいるはずなのだが。
そんなことを考えていると花音が歌い終わったらしく、拍手が起こる。
「ありがとうございました! ……っ」
礼を言った花音の足がふらつく。
「花音ちゃん!? 大丈夫?」
赤ちゃんをベビーカーに載せた女性が花音の体を支える。
「すみません……ちょっと貧血気味で。あ、でも全然元気なんで大丈夫です!」
「そう? ちゃんとご飯食べてね?」
花音がペロッと舌を出すと、周りの人は安心したように散っていった。
(……なんなんだろ、あいつ)
家に帰った旭は、ベッドに寝転がっていた。読み終わった漫画を枕元に放り出し、ぼんやりと天井を見つめる。
ただ、歌が好きで人前で歌えるほどの勇気を持った人なのだろう。だが、その歌声にはなにか惹かれるものがある。
旭は仰向けのままスマホを手に取った。チャットアプリを開き、キーボードで文字を打っていく。相手は祐太郎だ。
『日曜日に商店街で歌ってる花音って女子知らねーか?』
送信した旭は、なにかジュースでも飲もうとベッドから降りた。
『知らねー。てか、そもそも俺バイトだから日曜に商店街行かねーし』
返信が来たのは、日が落ちかけた頃だった。リビングのソファでテレビゲームをしていた旭はコントローラーを置き、スマホを手に取った。
「バイト?」
旭は片眉を引きあげた。祐太郎がバイトをしているなんて初耳だ。
『いつの間にバイトやってたんだよお前』
『言ってなかったっけ。駅前のラーメン屋でやってるよ』
『ふーん。暇できたら行くわ』
『おう』
やり取りを終えた旭はスマホを傍に置き、ゲームを再開した。
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